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ゴトウサンノ片オモイ
8p
「そ、そう。えーっと、家族はいない、か……まぁ、あんたの死体の発見が遅れた事情は分かったよ。そんなに若いのに餅を喉に詰まらせて死んだんじゃあ、成仏も出来ないよな。その……何て言うか、辛いな」
 俺の口からはやはり、気の利いた台詞は出て来なかった。
 この男、こんな若いうちにそんな風に亡くなって、成仏も出来ずに現世をさ迷わなければならないなんて、これが現実だとしたら俺ならばやっていられない。
「同情して下ってありがとうございます。確かに成仏もせずにさ迷っているの、結構辛くて、だから、成仏はしたいんですけど、心残りがあって出来ないんですよ」
「心残り?」
「はい、心残りです」
「ふぅーん、そんな、成仏出来ない程の心残りがあるもんかね」
 煙草の煙を吐き出して俺は言う。
「君には無いんですか、そういうの」
 訊かれて少し考えてみるが、「無いね。あったら教えてもらいたいくらいだよ」そう答えた。
 今の仕事は性に合っているとは思うが、こだわりはない。
 インチキ霊能者なんていつまで続けられるか分からないからだ。
 気の合う仲間はいるが、特別な人間関係もない。
 夢も希望も、やりたいこともある訳では無い。
 ただ、毎日をこズルく生きているだけのこの俺に、この世に残す未練何てありはしない。
 だから、心残りなんてありようがない。
 それが悪いこととも思わないし、寂しいこととも思わない。
「そうですか。でも、あなたもまだ若いんですから、これからきっと、何か心残りになる様なことが出来ますよ」
 霊に励まされるとは、何だか虚しい。
「そんなもんかな」
「そうですよ、きっと」
 もし、俺に心残りになる様なことが出来たとして、霊がこの世に存在するとして、そうしたら、おれも、この男のように死んだ後も死にきれずにこの世をさ迷うのだろうか。
 それは、酷く寂しいことのよう思う。
 だったら、そんなもの、無い方が良いのではないか。

「……あんた、この部屋に憑いているわけか? この部屋の地縛霊的な?」
 訊いてみると、「はい、他に行くところも無いので」と返事が返って来た。
「心残りが無くなったら成仏して、この部屋から消えられる気がするんですけど」
「なるほど、お前の心残りってなんだよ」
「えっ、それは……その」
 優男の顔が赤らむ。
 ふむ、霊の顔色も変わったりするのか。
「何だよ、言いにくい様なことなのかよ」
「いや、そう言う訳じゃないんですけど、でも、恥ずかしくって言いにくいです」
 優男はもじもじとしている。
 そんなに恥ずかしがることが心残りなのか。
 そんな態度をされると気になる。
「聞かせてくれたら、あんたの心残りが晴れる様に手伝ってやってもいいぜ」
「え、本当ですか」
 優男の表情が変わる。
「ああ、本当だ。男に二言は無いぜ」
 そうは言ったが、勿論本気じゃない。
 なにせ、これはどうせ覚めれば消える夢だ。
 夢の中でどんな約束をしても俺に責任はない。
「言えよ、どんな心残りがあるんだ?」
 言われて、優男はしばらく俺の顔を伺う様にじっと見ていたが、意を決したように姿勢を正して話し出した。


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