[携帯モード] [URL送信]

ゴトウサンノ片オモイ
8p
 スマートフォンをポケットから取り出し、見ると、南からの連絡だった。
『家、着いちゃったけど、どうしたらいい?』
 スマートフォンから顔を上げて南の方を見みれば、六号棟の前で、ぽつんと、お預けを食らった犬のように立っている南の姿が見える。
『そのまま帰って良いんじゃねーか?』と、友人の一人から返信が来る。
『だな、今日は収穫無しだ。また次だな』と、葛からの返信。
 今日はここで、解散、と言う空気だ。
 いや待て、さっきのやつは? と俺は再び六号棟を見上げた。
 すると、駆け足で階段を下りてくるやつがいる。
 俺は急いでグループチャットにメッセージを書き込む。
『南、これからお前んちの入り口から出てくるやつの顔、覚えとけ』
 チャットを確認したであろう南が困惑を顔に張り付けて後ろを振り返る。
 隠れている俺と南の目が合った。
 俺は、身振りで、良いから覚えとけ、と南に伝える。
 葛、平川、他の仲間から、どうした? 何かあったのか? とメッセージがグループチャットに届く。
『怪しいやつがいる』
 俺は皆にグループチャットでそう伝えた。
 南が六号棟を振り返るのと、そいつが入り口から出てくるのは同時だった。
 南は怖いのか、一瞬俺の方を振り返るが、しかし、そいつの方へと向き直り、南より背の高い、そいつを見上げていた。
 そいつは速足で南の横をすり抜けた。
 南がそいつの去ってゆく後ろ姿をぼんやりと眺める。
 俺は、グループチャットにメッセージを打ち込む。
『南、今のやつの顔、見たか?』
 南から返信が来る。
『相手が直ぐに行っちゃったし、なんか、俺、テンパっちゃって。しっかりとは見れなかったけど、男だったよ。なぁ、片葉、あいつがどうかしたわけ?』
『さっきのやつが、南のこと、見てたっぽいからさ』
 俺が、そうグループチャットにメッセージを入れると、友人達から、マジかよ、とざわついたメッセージが送られてくる。
『少しだけど、顔は確認したから、後で似顔絵描いてグループチャットに貼るわ』
 南がナイスアイディアを言う。
 俺達は念のため、辺りにまだ怪しい奴がいないかチェックする。
 俺達が大丈夫そうだと判断すると、南は家へ帰ることになった。
 解散だ。
 すっかり日が暮れた。
 疲れが防波堤に迫る波のごとく押し寄せた。
 これがしばらく続くのかと思ったら寿命メーターが縮んだ気がした。

 その日の夜のこと。
 俺は自分の部屋のベッドの上で、グループチャットを開き、南から送られて来た例の怪しい男の似顔絵の添付写真を眺めていた。
 南の似顔絵は、めちゃくちゃ上手かったが、南の言っていた通り、相手のことはしっかりと見れていなかったようで、上手いけど、いまいち、ぼやけて誰だか分からない感じだった。
 たった一つ、男の被っている帽子だけは、しっかりと描かれていて、それは、黒のキャップで、前の方に白い字でbig hungryと書いてある帽子だった。
 big hungryとは、凄い文字センスだ。どう受け止めていいのか分からない。
 俺は肩を落とすと布団の中に潜った。
 この時はまだ、南の描いた似顔絵が功をなすとは夢にも思っていなかった。


[*前へ][次へ#]

8/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!