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ゴトウサンノ片オモイ
7p
 窓から顔を離し、後ろを振り返ると、葛と目が合ってビックリする。
 葛も俺の顔を見てビックリしている。
「片葉、お前、どうしたんだよ、何で、電車の外から入って来たんだよ」
 葛が小声で言った。
「いや、南のことを見てた女を追いかけて電車の外に出てた」
 小声の葛に合わせて俺も小声で言う。
「マジかよ」
「マジだ。それで、女から話を聴いてみた」
 葛は、また、マジかよ、と言った。そして「どうだった」と訊く。
 どうだったとは、つまり、あの女が南のストーカーかということだろう。
「うーん、何か違うっぽかったな。南のことはただ見てただけ、だと」
「そうか」
 葛は残念そうな顔をする。
 俺はグループチャットで女のことについて、葛に話した通りに報告する。
 そうしてから、葛に質問した。
「葛、ところで、南は?」
 ここから南は見えるのか。
「あそこにいるぜ」
 葛が指さす方を見ると、少し遠い位置に南が見えた。
 平川の姿もチラリと見える。
 おいおい、嘘だろ、こんな場所からじゃ、南と南の周りが良く見張れない。
 葛は何をやってるんだ。
 電車は混んでいて、これでは移動することもできない。
 ああ、葛という男は探偵には向くまい。
 俺は、ため息を葛にばれないようにこっそりと吐いた。
 こうなったら平川が頼りだ。

 しばらく頼りの平川からの連絡がグループチャットに何件か入った。
 平川いわく、南を見ているやつが何人かいて、その誰もが怪しく見えるとのことだった。
 南という男はどうも人の目を引くらしい。
 こんな調子で南が降りる駅まで電車は来た。
 南が電車を降りたので、俺達も降りる。
 結局、怪しいやつは何人かいたが、南のストーカーらしき人物は見つからなかった。
『これからどうする』
 平川がグループチャットで訊いて来る。
 どうするも何も、ここまで来て解散だなんてことも無いだろう。
 俺は、目の前の葛に「このまま南の家までついて行こうぜ」と言った。
 葛は頷く。
 グループチャットで平川に、俺と葛はこの後も南の後をついて行くと連絡する。
 平川からの返信は、了解、俺も行く、だった。
 南から、すまない、と返信が来る。
 すでに、フェードアウトした連中からは激励のメッセージが届く。
 任せとけ、と俺達三銃士はそれに応える。

 駅を出て、南の後をつかず離れずの距離で歩いてしばらく、何事も無かった。
 怪しい人物どころか猫の子一匹見当たらない。
 あまりの変化の無さに、今日はこのまま何事も無く過ぎるのかと思った。
 いたずらに時間ばかりが過ぎてゆき、そして、もう直ぐ南の家という所まで俺達はやって来た。
 南の家は町はずれにある団地で、四角い団地の六号棟の一番端の四階が南の家だった。
 俺は、目の前の六号棟を見上げた。
 そして、沈みかけている夕日に照らされたあるものを見て、それに目を止めた。
 南の住む一番端の四階の階段の踊り場の柵から身を乗り出して、下を見下ろしているやつがいた。
 どうも、南のことを見ているように思える。
 不審そうに俺がそいつを見ていると、顔を上げたそいつと目が合う。
 そいつは、俺と目が合うと、スッと姿を消した。
 遠目から見たし、一瞬のことだったのでどんなやつかは分からなかった。
 南のことを見ていたと思えたのも俺の気のせいかも知れない。
 パーカーのポケットでスマートフォンが存在を主張する。
 グループチャットだ。


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