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ゴトウサンノ片オモイ
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「たまたま見つけた物件でさ、家賃が破格だったんだよ。まだ新しいマンションなのに、その部屋だけ、妙に家賃が安くてさ。部屋も気に入ったんで、即、住むことにしたんだよ」
「ふーん。ねぇ、それって大丈夫なのぉ?」
「何が?」
「妙に家賃が安いってとこよ。事故物件なんじゃない? 幽霊が出るとか」
「ははっ、あるわけねーだろ。幽霊とか、いてたまるかよ」
「あら、あんたがそれ、言っちゃうわけ」
「俺だからこそ言うんだっての。幽霊なんかいるかよ」
「はーん、双一、悪いんだ。霊も信じてないくせに、拝み屋なんかやっちゃってさ。あんた、いつか天罰が下るわよ」
「天罰なんか、それこそねーよ」
 俺はビールを煽ると、ちょうど花凛のオーダーを持ってきたママにお代わりを頼んだ。
「そうちゃん、飲み過ぎちゃダメよ。アナタ、お酒弱いんだから」
 ママが俺に言う。
「分かってるって、ママ。ママの店だと酒が美味くて、つい飲み過ぎちまうんだよ」
「あら、そうちゃんったら、上手なんだから。ふふふっ、一杯おごるわ。ワタシからの引っ越し祝いよ」
 ママがウインクをする。
 俺は、さわやかな笑顔を浮かべて、「ありがとう、ママ」と言う。
 その様子を、呆れた顔を浮かべて花凛が見ている。

「もう、双一ったら、人ったらしなんだから。ホント、呆れるわ」
 花凛が梅酒ロックの入ったグラスを揺らす。
 氷がグラスにぶつかって小気味いい音がする。
「言いがかりは止せよ。俺は、単に人がいいだけさ」
「なーにが。その可愛いお顔で、このバーの客の男をたらしこんでいるくせに。ほら、見なさいよ、あの、カウンターの壁際にいる男、さっきから物欲しげな顔であんたを見ているわよ」
「うん?」
 花凛に言われて見ると、キザそうな二枚目が俺を見ていた。
 俺と目が合うとキザったらしくニヤリと二枚目は笑う。
 俺は直ぐに目を逸らす。
 関わり合いになると面倒だ。
「はぁ、私も……誰か可愛い女の子が私を見ていないものかしら」
 花凛が長いため息を漏らす。
「お前の言う、可愛い女の子ってどんなのよ?」
「そりゃ、清楚可憐な美少女よ。あーでも、綺麗なお姉様タイプも捨てがたいなぁー。あーっ、出合が欲しい! 恋がしたい! 恋がしたーいっ!」
 花凛はそう叫ぶと、梅酒ロックを一気飲みした。
 そして、ギラギラした目をして俺を見る。
「双一、今夜は飲むわよ! とことん付き合いなさい! お互い、理想の恋愛について語り明かすのよ!」
「え、何それ? なぁ、今日って俺の引っ越し祝いで間違えないよな?」
「そうよ! 引っ越し祝いの名を借りた、恋愛座談会よ!」
 花凛の目が座っている。
 このノリは何だ。
 嫌な予感しかしない。
「俺、急用思い出したわ。帰っていい?」
 引っ越しで疲れているのに女の恋愛話し何かにつきあっていられるか。
 しかし、花凛は俺をいたわることを知らない。
「帰っていいかって? ノー!」
 花凛が席を立とうとする俺の肩をがっしりと掴む。
「逃がさないわよ! 二丁目の夜はこれからよ! ママ、梅酒ロックお代わり!」
「花凛、勘弁してくれよ!」




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