[携帯モード] [URL送信]

ゴトウサンノ片オモイ
18p
 今は何時だろうか。
 時間を知れる物が辺りにないので分からないが、カーテンから漏れる光も無いし、部屋は暗い。
 まだ夜のはずだ。

 さて、どうするか。

 このまま黙ってここを抜け出すか。
 それはマズい気がする。
 この部屋の鍵が開けっ放しになってしまう。
 じゃあ、この男を起こすか。

 俺は、男の顔を見る。

 男は気持ちよさそうに眠っている。
 起こすのも悪い感じだ。

 いや、話はそうじゃない。

 そもそも、俺は、この部屋を出てどうする。
 自分の部屋に帰るのか。
 それはとても気が進まない。
 部屋にはあのゴトウさんがいる。
 あいつのせいで、俺は、ここ一週間散々な目に遭っている。

 うーむ。

「…………こいつ、ポカリくれたし、悪いやつじゃ無いよな」

 うん、せっかくだ。
 このままここで、有り難く眠らせて頂けばいい。
 久しぶりにぐっすりと眠れるチャンス到来なんだ。
 そのことに比べたら、よく知らない男の隣で寝るくらい、何でも無いことだ。

 俺は一人頷くと、布団の中に入って男に背を向け、目を瞑った。

 今日はここに泊ってやろうと思い切ると、眠りは直ぐに訪れた。

 眠りの縁で、心地いい温かさが再び俺を襲う。
 それに抗うことは眠りに落ちた俺にはもう不可能だった。



 朝、気持ちよく目が覚めた。
 久しぶりによく眠れた。
 体が凄く軽い。
 昨日の酔いも全く残っておらず、さわやかな朝とはまさにこのこと言えた。

 隣を見れば、隣人の男の姿はもう無かった。

 俺は布団から半身を起こした。
 伸びをして、敷布団からそろりと出る。
 素足でフローリングを踏むと床のヒヤリとした感覚に体が震えた。
 俺はすぐさま布団に戻りたくなったが、しかし、この部屋の主がもう起きているらしいのにそうはいくまい。

 がらんとした部屋の扉を開けると、これまた殺風景なリビングに出た。
 家具といえば、窓際にある二人で使えるくらいの折り畳み式のテーブルと、これまた二脚の折り畳み式の椅子。
 そして、部屋の端に白い色の棚が一つと、壁際にアルミニウムの中サイズのスーツケースが三つ置いてあるだけだ。
 テレビなどの娯楽的な物は一切見当たらなかった。
 そんな部屋の中で、主は折り畳み椅子に座り、折り畳み式テーブルに肘をつけてぼんやりと外を眺めていた。
「えっと、おはようございます」
 俺がそう声を掛けると、部屋の主、隣人の男は顔を俺の方へ向け、気だるげに「おはよう」と言った。
 俺は、ためらいながらも男の側へ寄る。
 近づくと男が椅子に座ったまま俺を見上げた。
 俺は、その男の顔を思わずじっと見てしまう。
 明るいうちにこの男の顔をしっかりと見るのはこれが初めてだ。
 こうして見ると、この男、呑気そうな雰囲気はあるが、目鼻立ちの整った中々の良い男だ。
 年齢は俺より上だろうか。


[*前へ][次へ#]

18/28ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!