ゴトウサンノ片オモイ
11p
「あんた、ど、どどどどっ、どうして!」
「どうしてって、何ですか?」
首を傾げるゴトウ。
「何であんたがいるんだよ! あれは夢のはずだろうが!」
ゴトウに人差し指を突き付けて俺は言う。
夢の中の登場人物が何で現実にいるんだ。
俺はまだ夢の中にいるのだろうか。
そうだ、そうに違いない。
これも夢だ。
「僕、また朝にって言ったじゃないですか。忘れたんですか。夢って何です?」
「俺の方は、また朝に何て言ってねーよ。夢は夢だ」
「は……はあ」
「おい、あんた、さっきから何ずっと手で目を隠してんだよ! あんたは純情可憐な女子高生か! そうされるとこっちが逆に恥ずかしいから、その手をどけろよ!」
「す、すみません。じ、じゃあ……」
ゴトウは手を顔から外したが、赤い顔をして視線を床に向けている。
「何赤くなってんだ! ったく、男に裸見られて赤面されるとか、何て夢だよ!」
「あっ、ああ。なるほど、片葉君、僕のこと、夢だと思っているんですね。無理もない事かも知れませんけど、これは現実ですよ」
顔を上げて、さらりとゴトウは言う。
何が現実か。
こんな現実あるか。
ゴトウは霊を名乗っている。
これが現実なら霊の存在を認めることになる。
霊なんて、極めて非現実的だ。
霊なんてサンタクロースと同等の存在。
二十三年間生きてきたが、霊もサンタクロースも、そんなもの拝んだ試しは一度たりとも無い。
これからの人生でも同じだ。
「あるわけねーだろ。霊なんて、いるわけねぇよ」
「そう言われても、いるものは仕方ないですよ。あの、そんなことよりも、片葉君、前の話の続きがしたいんですけど」
「前の話って何だよ」
「えっ、忘れちゃったんです? 僕の成仏に協力してくれるって話ですよ」
「そんなの夢の話だぜ」
「だから、夢じゃないですって。参ったな」
困った顔をしてゴトウが俺を見る。
困っているのは俺の方だっての。
俺はとりあえず、勢いよく出ているシャワーの蛇口を閉めた。
バスルームの中は湯気で溢れていて、ゴトウの体が湯気と一緒に揺らめいている。
見ていると眩暈でも起こしそうだ。
「あの、僕の方からバスルームに入っておいて申し訳ないんですけど、やっぱり目のやり場に困るので服を着て欲しいんですけど」
遠慮がちに言うゴトウのその台詞に、俺はカッとなる。
「言われなくても、男相手にいつまでも裸を見せてる趣味はねーよ!」
リビングで、一人掛け用のソファーに足を組んで座り、目の前を見る。
梧桐藤一郎。
スペック、霊がそこにいる。
俺は腕をつねってみる。
痛い。
これが夢ではないなんて、まだ信じられない。
しかし、だ。
悔しいことに、どうやら俺の目は覚めている。
目の前の男、ゴトウは透けていて、ゴトウ越しに寝室の扉が見えた。
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