虹蛇 5p スマートフォンが震える音がする。天谷のスマートフォンだ。 「あ、ごめん」 天谷は慌ててスマートフォンをリュックから取り出して、ごめんと繰り返し浅山と日下部に謝りながらスマートフォンを見る。 「メール来てる。あ、えーっと、友達から。なんか、図書館一緒に行こうって、世界史の講義の調べ物したいから、俺も一緒にって……」 天谷が早口でそう言うと、浅山が「え、だから?」と言う。 「え、あ、ああ。ああだから、うん、俺、図書館行くわ、カラオケも苦手だし。浅山、日下部、ごめん、また、誘って?」 「え、ええっ? 天谷?」 日下部がひっくり返った様な声を出した。 天谷は、長い前髪をいじり、顔を少し隠してから「じゃあ、俺、行くわ」と言って、日下部と浅山に背を向けて早足で歩いた。 天谷の背中に、天谷を呼び止める日下部の声と、またな! と叫ぶ浅山の声がおぶさる。 「なぁ、天谷のやつ、昨日と同じ服だったよな、朝帰りってやつ? あいつも中々やるよな。さっきのメール、彼女じゃん? 会いたいとか連絡来たんじゃね?」 クククッと笑いながら言う浅山に、日下部は「彼女とか、そんな訳あるかよ!」と怒鳴った。 日下部に背を向け、一人坂道を登る天谷の足取りは重かった。 (はぁっ、俺って最悪。もっと違う態度が出来なかったかな。日下部と浅山、気を悪くしたよな) 天谷は、憂鬱気にため息を吐き出した。 天谷のスマートフォンが鳴る。 天谷がスマートフォンを見ると、日下部からメールが入っていた。 『天谷、大丈夫? なんか、ごめん、怒らせた?』 日下部からのメッセージに天谷は素早く返信する。 『怒ってない。遊びの誘い、断ってごめん』 日下部から直ぐに返信が来る。 『謝るな。怒ってなくて良かった。なぁ、さっき言ってた友達って誰?』 天谷は直ぐに返信する。 『不二崎ってやつ。お前が知らないやつ。世界史で知り合った。お前、世界史の講義取ってないから顔も知らないだろ』 『そか』 『そうだよ』 『お前に友達とか、ビックリした。友達出来たとか聞いてない』 『失礼! 失礼! わざわざ言うことか?』 『はは。なあ、天谷、そういえば、お前、始めてうち、泊まったよな』 『そだな』 『じゃあ記念日だな』 『なんの?』 『俺たちが付き合いはじめて天谷が始めてうちに泊まった記念日』 天谷の手が止まる。 天谷の顔が赤い。 鳥の飛び去る音がする。 雨が降り出した。 天谷の顔に雨が落ちる。 「冷たっ!」 天谷は指で雨を拭った。 [*前へ] [戻る] |