虹蛇 10p 「ううっ、寒っ。店出たら急に寒いわ。天谷、どっか入ろうぜ。夜まで時間潰さないといけねーしさ」 そう言って、日下部はもう歩き出していた。 天谷は慌てて日下部の後に続き、階段を下りながら、「お前は能天気で良いよな」と日下部の背中に言葉を投げかける。 日下部はそれを聞いてただ笑った。 二人はひとまず、カササギデパートに戻ることにして、そこで時間を潰そうと決めた。 ビルを出て、デパート目指して道を歩く二人に、冷たい風が強く吹きかかる。 二人は互いに温め合うようにして、自然と寄り添って歩いていた。 それを、天谷は恥ずかしいと感じたが、寒いから、まぁ、いいか、と思った。 カササギデパートは直ぐそこ。 日下部とはそこで離れたらいい。 デパートに着くまで、日下部の温度を感じながら、日下部の笑顔の横顔を時々見ながら、天谷は寒さを忘れて、日下部の隣にただ、いた。 天谷と日下部はデパートのロッカーに財布とスマートフォン以外の荷物を預け、身軽にして広いデパートの中をぶらぶらと回った。 クリスマスの人混みの熱気と暖房の効いたデパートの中ではコートでは暑いくらいで、コートもロッカーに入れればよかったと二人して後悔した。 「何か、アイス食いたくねー?」 マフラーをほどきながら日下部が言うと、天谷は甘いのは苦手だけど、と思いながらも、「うん」と頷いた。 「じゃあ、後で休憩がてらアイス屋行くか」 日下部の提案に、天谷はまた頷く。 日下部は色々な店の前で立ち止まり、その中へ入へと入る。 天谷が今まで入ったことの無いような店。 天谷は日下部の背中について、恐る恐る店の中に進む。 変わったデザインの時計が並ぶ時計屋に、流行りの物を取り揃えたかばん屋。 普段天谷が絶対に着ないような服を売っている店。 全部趣味に合わなかったけれど、天谷は日下部の隣で決して退屈では無かった。 化粧品売り場に行って、二人でシャネルの5の香りをかいで、「これがマリリン・モンローの香りかぁ」と、妙に納得してみたり。 今日は図書館で一人で静かに過ごすはずが、こんなにも賑やかしい一日になるなんて。 (楽しい) 天谷は思う。 「天谷、お前、どっか寄りたい店、というか、気になる店、ある? さっきから連れまわしちまってるから」 日下部に言われて、天谷は、少し考えて「本屋かな」と遠慮がちに言った。 どうしても行きたい訳では無くて、日下部が興味が無いなら別に良いや、という気分だった。 「じゃあ行こう」 日下部は即答した。 「え、良いの?」 「逆に、何が悪い?」 「え、えーっと……」 口ごもる天谷にため息を吐きかけると、「ほら、早く行くぞ」と日下部はエスカレーター目指してスタスタと歩いて行った。 「あっ、待って!」 天谷は日下部を追いかける。 [*前へ][次へ#] [戻る] |