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虹蛇
25p
「ちょっと、誰よ、保健室で騒いでいるのは!」
 そう言って保健室に入って来たのは養護教諭の北原だった。
「何よ、小宮に日下部、後……え、もしかして、天谷君? 嘘、めちゃくちゃ可愛いじゃない! きゃーっ! 凄く似合ってるわよ、女装! 六組は女装カフェだったわね。小宮、あんたの女装は酷いわねー。天谷君の女装は目の保養だわ」
 天谷を見て浮かれている北原の台詞に日下部は「はぃぃぃっ?」と奇妙な叫び声を上げる。
「何? 日下部、目が点になっちゃってるじゃないの。どうしたのよ?」
 そう北原に話しかけられても石の様に動かない日下部を指さして、北原は小宮の方に「どうしたのよ、日下部は?」と訊く。
「さぁ、コイツ、さっきからおかしくて。あ、そう言えば、準備室でどうのって言ってたけど、準備室で日下部と何かあったん、天谷?」
「じゅ、準備室でっ? えっ、えーっと……」
「あり? 天谷、何で顔赤くなるん? また熱でも出した?」
 天谷は俯いて何も言わない。
「なぁ、日下部、準備室で何があったんだよ?」
 急に話を振られた日下部の顔も赤くなる。
「ちょ、二人して何んで顔赤くしてるんだよ。おい、お前ら二人、何かおかしいぜ」
 小宮は目を光らせて日下部と天谷を見る。
「おかしいのはお前の方だろ! 話は読めたぜ! 紛らわしい冗談かましやがって! 手間かけさせられたお礼にたっぷりと奢ってもらうからなぁ!」
 日下部は小宮の制服の襟を掴むと思いっきりねじり上げた。
「え、日下部、何で急に怒こってるんだよ? 訳わからんよ?」
「うるさい、小宮、お前は死ねば?」
「ええっ? 何だよそれー、天谷、助けて、日下部に殺られるぅー!」
「えっ、俺? 何? あっ、あっ……」

「あんた達、うるさいわよ! 全員、保健室から出て行きなさい!」

 校舎に北原の雷が落ちる。



「シンデレラ。
 十二時になったら魔法は解ける。
 十二時になったらカボチャは馬車になる。
 十二時になったらシンデレラはただの娘になってしまう。

 十二時を回れば、また魔法が掛かる」
 
通りすがりの女子生徒二人が声を合わせて歌う。

 天谷、日下部、小宮の三人は北原に保健室を追い出され、廊下を並んで歩いていた。

 小宮は楽しそうで、日下部はふくれっ面をして、天谷は横に並ぶ日下部の顔を少し緊張した顔をして横目に見て、三人は前へ歩く。

「君の名前は?」
 天谷が囁く声でそう訊いた。
 日下部はふくれっ面のまま、「日下部光平。覚えろよ、天谷雨喬」と言った。
 小宮は二人を見て笑う。



 歌が聞こえる。

 シンデレラ、十二時を回ればまた魔法が掛かる。

 魔法がまた動き出す。













 


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