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虹蛇
22p
「泣くな!」

 良く通る声がした。
 その声に驚いて、日下部と女の子が声のする方を見る。

 声の主は天谷だった。

「ちょ、お前、そんな風に言ったら余計に泣くだろ!」
 そう言う日下部を無視して天谷は女の子の前まで近づくと、しゃがみ込んで女の子の顔を見た。
 女の子の方も天谷の顔を見ている。
 天谷を見る女の子の顔は驚いたような表情が浮かんでいた。
 女の子の口から、はぁ、っとため息が漏れた。

 天谷は女の子をキッと睨む。
「泣く子は嫌われるぞ」
 そう言うと、天谷は女の子のおでこを指先でそっと押した。
 そして、その手を女の子の頭に手を載せ乱暴に髪を掻きまわした。
 女の子は何とも言えない様な顔をする。
 そんな女の子の顔を見て、天谷は、「なにその顔、変な顔」と言うと、くすりと笑った。
 その天谷の笑顔に女の子は目を見開く。
 日下部も天谷の笑顔にハッとした。
 日下部はとても珍しい物を見た気分だった。
 夢でも見ている様な顔で日下部は天谷を見た。
 それは女の子も同じだった。
 日下部も女の子もつまるところ天谷に見とれたのだが、本人たちはその事に気付いていなかった。

 女の子は、少しの間天谷の顔を見ていてたが、やがて、手で涙を拭くと、天谷に両腕を差し出して、「抱っこ」と赤い顔で言った。
 その光景を見て日下部は驚いた。
(あのガキを手なずけた? たいした女だぜ、魔女か、あいつは?)
 日下部は天谷にすっかり感心していた。
 
 天谷は仕方ないなと女の子を抱き上げた。
 その瞬間、天谷は顔を歪めて「痛い!」と声を上げる。
「どうした」
 日下部が訊くと天谷は「腕が痛くて」と答えた。
「腕? あ、もしかして、さっき俺があんたの腕を掴んだ時に痛めたのかも……俺のせいだな」
 日下部は申し訳なさそうにそう言う。
「いや、腕は多分窓から飛び降りた時に捻ったんだと思う。君のせいじゃないよ」
「はぁ、窓から飛び降りただって? あんたは一体どういうやつだよ」
 呆れる日下部に天谷はけろりとして「どうって、君に比べたら普通だと思うけど」と答えた。
「どういう意味だよ」と日下部が言うと、「さっき、予備室で……」と顔を赤くして天谷が言う。
「いや、だから、あれはアクシデントで、わざとじゃないから」
「そうなのか?」
「決まってるだろ!」
「そう……だよな。うん、分かった」
「お、おい、その事は置いておいて、その子かせよ、俺が抱くから。その手じゃ無理だろ」
 日下部がそう言うと、女の子は天谷に縋りついて、天谷から離れないぞと言う意思を日下部に見せつける。
「ダメだぞ、こっちにおいで。そいつは怪我してるから抱っこは無理だよ」
 日下部が優しく言って聞かせるが、女の子は激しく首を振り「嫌、お姉さんがいい!」の一点張りを通した。
 お姉さんと呼ばれた天谷は苦笑いをしていた。
「お姉さんか、ははっ……。良い子にしてたらこのまま抱っこしててあげる」
 天谷が言うと、女の子は、うん、と頷いた。
「このまま抱いてインフォメーションまで連れてくよ」
 天谷が言うと日下部は心配そうに「手、大丈夫なのかよ」と言った。
「こんなの、何てことないよ。行こう」
「あんたがそう言うなら分かったよ。でも、辛かったら言えよ」
「うん」
 日下部と天谷は女の子を連れてインフォメーションを目指した。




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