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虹蛇
13p
(小宮と一緒にいてどうする? 一緒にいてどうしたら良いんだろう? 小宮はなんで俺なんかを誘ったのかな? 気まぐれ? 同情? そもそも小宮は俺なんかといて何の得があるんだ? 俺なんかといても小宮は楽しくないだろうに……)
 天谷の頭の中を疑問の渦が湧く。

(小宮はどうして俺なんかに……)

 保健室で話をした日以来、小宮は何かと天谷を構う様になった。
 お昼を一緒にどうかと誘ったり、学校の帰り道に一緒に帰ろうとしたり、文化祭の準備の時は小宮は天谷の隣で文化祭の為の工作を一緒にしたりした。
 何かあるたびに小宮は天谷と関わろうとしてきた。
 天谷にはそんな事をする小宮の気持ちが理解できなかった。

 渡り廊下の片隅で、天谷はゆっくりと目を閉じる。
 そして、ある人から自分に向けられた言葉を思い返す。

『お前といると息が詰まるのよ』
(そう思う)
『つまらない子』
(そう思う)
『お前といると憂鬱になるわ』
(そうだよな……俺はやっぱり)

 天谷は目を開く。
 そうして、天谷は目を開いて見た物にビクリとした。
 天谷の目の前に、私服の見知らぬ男子二人が立っていたのだ。
 二人はにやけた笑みを浮かべて天谷を眺めている。
(この二人、俺の女装姿がそんなに可笑しいか? まあ、自分でも可笑しいと思ってるけど)
 天谷はそう思ったが、それにしても、こんな風にニヤニヤしながら観られたらいやな感じがすると「あの、何ですか?」と尖った声で二人に向かって言った。
 これでこの二人がいなくなってくれたら良いと天谷は期待したが、機嫌を悪くしている天谷を前にしても二人はにやけた表情を崩さずに、この場を立ち去らなかった。
 そればかりか、二人で声を合わせて「君、一人?」と天谷に声を掛けて来た。
「見ての通り一人ですけど」
 天谷が怪訝な顔で答えると、彼らはにやけた顔をより一層にやけさせる。
「君、どこの学校の子?」
 一人がそう言う。
「一人だったら、良かったら俺らと一緒に回らない?」
 もう一人がそう言う。
「え、えっと……」
 二人の態度に天谷は困った。
(こ、この二人は何なんだよ!)

「ちょっと、あれ見ろよ、天谷のやつ、ナンパされてんじゃん」
「マジだ。くくっ、あのナンパ男二人、可愛そうに」
 通りかかった天谷のクラスメイト二人が可笑しそうに言って通り過ぎて行ったが、天谷の耳には届かなかった。

「ねぇ、少しで良いから付き合ってよ」
「いや、少しって言われても」
「いいじゃん、少しぐらい。食べたいものあったら奢ってあげるし」
「え、奢ってくれるんですか。何で?」
「いや、それは、君が可愛いからだよ」
「は、はぁぁっ?」
 弾丸の様に発射される二人の会話について行けず、天谷はくらくらと眩暈を感じた。

 自分が女と勘違いされてナンパされている、だなんて天谷は考えつかない。

「ねぇ、連絡先教えてよ」
「え、あの……」
「あ、いいね! いいね! ここで会ったのも何かの縁だし連絡先交換しようよ、ね!」
「あっ、あっ……」
「ねぇ、どこ行きたい? あ、外いっちゃう? カラオケとかどうよ?」
「…………」
「いいねー、行こうよ!」
 天谷は後ずさるが後ろは壁だ。


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