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虹蛇
9p
「あの、俺、もう一人で大丈夫だから、えっと」
 布団をぎゅっと握りしめて天谷は言う。
 小宮は視線を天谷に向けて「あ、ああ。あの、あとちょっと話しても大丈夫? すぐ終わる話なんだけど。あ、話し、苦手なんだったよな。えっと、無理にとは言わないから」と、慌てて言う。
「あ、話し……何?」
 布団を捲り起き上がろうとする天谷を小宮は制した。
「そのまま聞いてくれたらいいから」
「うん」
「あのさ、天谷は、その、人と話すの苦手なんだよな。なのに昨日話しかけて来たじゃん。それはやっぱりホームルームでの事怒ってたから?」
 聞かれて天谷は首を振る。
「昨日は、怒ったとかじゃなくて、理由が知りたくて。君がホームルームであんな事言って、それを、何でって思ったから、それだけで」
「そうだったんだ。あ、理由、だよな、知りたいよなぁ。えーっと、昨日のアレなんだけど、こんな事言うのもなんだけど、俺があんな事した理由ってのが、それが、上手く話せなくて、でも……俺……」
 小宮の声は途中で小さくなっていた。
 天谷は「何?」と聞き返す。
 小宮はじれったそうに「だから!」と声を大きくして、「悪かったよ」と言った。
「え」
「ごめん」
「え、あの、君の話って、もしかして、俺にごめんって、それだけ?」
「そうだよ。なんだよ、他に何か欲しいのか?」
「いや、違うけど。良かったの? 俺が君の名前覚えるまで謝らないんじゃなかったっけ?」
 天谷に言われて小宮が、うっ、と息を詰まらせた。
「お前、結構意地悪だな」
 小宮が苦い顔をすると、天谷は潤んだ目を瞬かせた。
「そう? 意地悪……。初めて言われた」
「ごめん、悪口じゃないんだ」
「別に言われて嫌じゃなかったよ、こみや」
 名前を呼ばれて小宮はハッとした顔をする。
「こみや、名前、覚えたからな」
 天谷の口角が上がる。
 小宮は、「ああ」と、照れくさそうに笑って天谷の髪を撫でた。
「髪、何で撫でるの?」
 そう聞く天谷は嫌がるでもなく髪を撫でられている。
「知るかよ」
 小宮の顔は赤かった。
「こみや」
「ん?」
「文化祭、頑張ろうな」
「は、お前、文化祭の出し物、やる気満々か?」
「へ? 俺、何か変な事言ってる?」
「言ってるよ、熱でもあるんじゃねーの?」
「熱、あるよ」
「だったな。俺、もう行くわ。ちゃんと寝ろよ、天谷。またな」
「うん、こみや」



 小宮は立ち上がるとベッドのカーテンを引いた。
(天谷、面白い奴)
 小宮はニヤリと笑った。

 保健室の扉がからりと音を鳴らして開いた。
 小宮は扉の方を向く。
 入って来た男子生徒と小宮の目が合う。
「お、小宮か」
「日下部」
 入って来たのは小宮の悪友、日下部光平だった。
「日下部、保健室に何用? 先生ならいないぜ」
「ん、貧血で怠いから一限目サボろうと思ってさ。小宮こそ、保健室に何用だよ」
「俺は野暮用」
 そう言って小宮はカーテンの閉じたベッドを指さす。
「なに? 逢引でもしてたのか」
「バカ言うなよ。お前じゃあるまいし。あー、保健室で一限目サボりかぁ、その手もあったな」
「ははっ、サボりは小宮の常套手段なのに抜けてるぞ」
「今度からはサボる事にするよ。今日は真面目に授業を受けるわ。俺、行くから、日下部、静かにな」
 言われて日下部はカーテンの閉じたベッドに目をやり、「ああ、重病人か?」と言った。
「まあまあの病人だよ。寝かせてやりたいんだ」
「了解」

 小宮は日下部にじゃあな、と言うと保健室を出て行った。




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