虹蛇
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小宮一二三。
チャラチャラした風のこの男は天谷、日下部と学部は違うが、同じ大学の一年生だ。
小宮は天谷と日下部とは高校からの付き合いで、日下部と小宮とは中学からの付き合いだった。
ちなみに、小宮は天谷と日下部の関係については知らない。
三人は、前に天谷、日下部、後ろに小宮と言う風に並んで歩きながらどうでもいい会話を話した。
もう少しで道を抜けるという時に、突然、小宮が後ろから両手で天谷の腰を掴んだ。
天谷は、ぎゃあ、と悲鳴を上げる。
「なにすんだよ、小宮は!」
天谷の非難の声に、小宮は笑って「いやぁ、相変わらず、天谷先生は細いなと思ってさ。ちゃんと飯食ってんの? ギュッとしたら折れちゃいそうじゃん?」そう言って、小宮は天谷を抱きしめる。
「うっわ! 苦しい! 嫌だっ、離せ!」
天谷は身をよじらせる。
小宮の金髪の髪と天谷の少し茶色い髪が混ざる。
「天谷、髪、いい匂いだな。女にモテそうな匂い。シャンプーなに使ってんの?」
小宮がサラサラの天谷の髪を撫でなが言う。
天谷は「なんでもいいだろ、やめろよ!」と小宮の腕の中で暴れた。
「小宮、天谷を離せよ! ノロノロやってんな! 遅刻するだろ!」
日下部が天谷を自分の方へ引き寄せる。
「なんだよ、日下部の旦那、俺と天谷がいちゃついてるのが羨ましいのぉ? あ、嫉妬か?」
「あ? しっ、嫉妬とか、ないから! お前、ふざけるのもいい加減にしろよ!」
慌てて言う日下部。
「へっ? 旦那、お前、なんで顔赤くなってんだよ? 熱でもあんの? あ、つか、お前、その首の絆創膏、なんだよ?」
「小宮、黙れよ!」
「小宮も日下部もいい加減にしろよ! 学校、遅刻するだろ! 日下部、離せよ!」
天谷は、暖かい日下部の腕の中で叫んだ。
三人は走って大学へ向った。
大学の中庭。
大きく育った樹木に背を預けて、天谷は一人で小説を読んでいた。
この昼休憩中に天谷はここで、ずっと一人で小説を読んでいたが、しかし、天谷の頭には全く小説の内容が入ってこなかった。
理由は日下部についてのある出来事にあった。
天谷の大学では一年次に、必須科目以外に二つ、自由選択科目の講義を受けることができた。
天谷は自由選択科目である宗教学の講義を受けるために、一人、廊下を移動していた。
「なぁ、天谷」
不意に声を掛けられた。
声の主は、天谷は名前を知らなかったが、たまに日下部と一緒にいる男子だった。
その男子と合わせて四人の男女に天谷は囲まれた。
全員、日下部と一緒にいるところを天谷は見たことがあったが、全員の名前を天谷は知らない。
「なに?」
天谷は笑いもせずに言った。
「天谷、お前さ、日下部のこと、なんか知ってる?」
始めに天谷に話しかけてきた男子が言う。
「なんか、噂になってるじゃない。気になっちゃってぇ」
ショートヘアーの女子が言う。
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