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虹蛇
1p
 漫画や小説の朝のシーンは決まって小鳥がさえずるところから始まる。
 だからこの朝もおそらくは小鳥はさえずっていただろう。

 眩しい朝の光にさらされている木造二階建ての古アパート、カーサコミヤの201号室にスマートフォンのアラームの音が響く。
「うっ、んっ……」
 天谷雨喬(アマヤウキョウ)はその音で目を覚ました。
 天谷は音を鳴らしている自分のスマートフォンを手に取るとアラームを止めた。
 今は一体何時なのか、天谷はスマートフォンで確認しようとしたが、画面がぼやけて見えなかった。
 天谷は顔を上げ、ぼやけた景色を見つめてからあたりを探る。
(あった)
 天谷は黒縁のメガネをゆっくりした動作でかけた。
 天谷の世界が形を作る。
 1Kのアパート。
 部屋は六畳の広さで、その部屋は、プラモデル、ゲーム機、未開封の電動髭剃り機の箱、通販で売っている健康器具などなどの雑然とした物に占領されてはいるが部屋が整理整頓されていてるお陰か狭さは感じない。
(ああ、ここ……)
 ここは日下部光平(クサカベミツヒラ)のアパートだった。
 部屋の主人、日下部は黒く塗られたパイプベッドで天谷に背を向けて眠っている。
 対して天谷は狭いソファーで眠っていたようであった。
 背中を丸めて寝っていたためか、天谷は腰が痛かった。
(そういえば、昨日、俺、日下部ん家に泊まったんだったっけか)
 天谷は日下部に借りたTシャツを両手の指でつまんで引っ張って見る。
 白地に黄色で書かれたgive and takeという文字が歪曲する。
「何がギブアンドテイクだよ」
 天谷は痛む腰をさすり、日下部を目を細めて見ながら呟いた。
 天谷は日下部に近づくと、日下部の顔を覗き込んだ。
 日下部はぐっすりと眠っている。
「こいつ、寝癖すごい」
 天谷は逆立った日下部の黒髪に触れそうになって手を引っ込める。
「あっ、や、何やってんの、俺。あ、えっ、あー……えっと、日下部っ」
 天谷は照れ臭そうに日下部に声をかける。
「天谷?」
「あっ、日下部」
 天谷は日下部から離れようとする、が、日下部は寝息を立てている。
「え、日下部?」
「なに、天谷?」
 日下部が微笑んだ。
「日下部……」
 日下部は……日下部は眠っている。
「…………」
 天谷は笑顔を浮かべたままの日下部の顔に自分の顔を近づける。
 天谷は日下部の顔をじっと見る。
 日下部は、眠りながら、ふっ、と天谷に優しく微笑んだ。
(この笑顔、こいつがモテるのもわかるな、なんか)
 そう思って天谷は細く息を漏らした。
 天谷の少し茶色い髪がさらりと日下部の顔に落ちる。
「くくっ、くすぐったいよ、天谷」
 日下部が寝言を言う。
「もう、なんだよ……こいつ」
 天谷は日下部の鼻を思い切りつまんだ。
 日下部の顔が苦しそうに歪む。
「起きろ、日下部、朝だ」
 天谷は容赦なく日下部の鼻をつまむ指に力を入れる。
「う、天谷」
 日下部の腕が天谷の腰に伸びた。
「ぐえっ!」
 天谷は間抜けな声を上げると日下部の上に落ちる。
 そして、そのまま、日下壁に抱きしめられた。
「ちょ、え、日下部?」
「ん、天谷……」
「や、離し、痛いっ、やだって、離せよ、日下部!」
 日下部は天谷を離さない。
 日下部はまだ眠っている。
 日下部はどうやら寝ぼけているらしかった。
「痛いって、日下部、や、もう……」
 天谷は強く抱きしめられる痛みで顔をしかめる。
 そんな天谷に対して、日下部の方はといえば幸せそのものという顔をしている。
「ん、天谷、月が綺麗だなぁ」
「はぁ、月ぃ? 何言って、い、痛っ、も、もう……」
「温泉、来てよかったな、天谷」
「は、うぁ、もう……」
 天谷は首を思い切り後ろにのけぞらせる、そして……
「いい加減にしろよ!」
 天谷は、首を前に勢いよく起こして日下部に思い切り頭突きを喰らわせた。
「うっ、いってぇ」
 日下部はうめき声を上げて目を覚ました。
「おはよう、日下部」
 不機嫌な顔で天谷が言う。
「おはよう」
 天谷の顔を見て、日下部が笑顔を浮かべて言いった。




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