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赤は彼の
※流血注意
※マルロイ前提のマルアイ
※マルスが病んでる





「逃げないの?」

逃げるのが当然だと思っていたマルスは、不思議そうに首を傾げた。
楽しそうな声と幼稚な仕草は、純情無垢な子供を思わせる。
だが、彼は子供ではないし、ましてや純情無垢などとは程遠い。
アイクはそれを嫌というほど理解していた。

「アイクは優しいね」

そう言ってマルスは笑った。
表情こそ笑ってはいるものの、目は笑っていない。
まるで、獲物を狩る猛獣のように、その青い目をギラギラと光らせている。

「好きだよ、アイク。愛してる」

アイクの肩に顔を埋めて、マルスは囁いた。

「君は彼に似ている。ときどき、君と彼の姿が重なるんだ。だから僕は君を愛する。彼の分まで君を愛する。彼だと思って君を愛するよ…」
「……」

アイクは何も答えず、何も考えず、ただマルスの言葉を聞き流す。
聞き流すしか方法がなくて、アイクは溜め息をついた。
何度逃げても、何度拒否しても、マルスは決して諦めない。
それどころか、逃げれば逃げるほど、拒否すればするほど、彼はアイクにロイを重ねた。
彼はアイクにロイを求めた。
マルスは壊れる寸前だった。助けられるものなら助けたかった。
だが、彼の狂った愛を受け入れることだけは絶対に嫌だった。
だから、不毛だと思いながらも逃げることを辞め、拒否することを辞め、受け流すことを決めた。
以来、マルスは比較的落ち着いていた。
それでも時々、まるで発作のように、彼はロイを求めた。

「僕は思うんだ。アイクには足りないって。だから、…だからね…」
「っ……!!?」

首筋に鋭い痛みが走った。
犬歯が食い込む感覚に、肌が粟立つ。

「こうすればもっとロイに近づけるでしょ?」

顔を上げたマルスの唇から、血が滴り落ちていた。

「彼はね、赤かったんだよ。彼はもっと赤かった。君よりずっと赤かった。青は僕の色で、蒼は君の色で、赤は彼の色…」

マルスは唇についた血を指先で拭い取って、指先についた血を自身の舌で舐め取った。

「血は、彼と同じ色。ねえアイク、もっともっと彼に近づいてよ…アイクもロイと同じになってよ……ロイは何処にもいない。だからアイクがロイになってよ」

マルスはファルシオンを振りかざす。
アイクは避けることもせず、刃を受け続けた。
狂った愛を受け入れることはできないが、受け止めることはできると自分自身に言い聞かせて。
根本的な解決にはなっていないと知りながらも、ただひたすらに耐え続けた。





瞳に狂気を、手に凶器を

青い少年は赤い少年を求めて、蒼い少年を傷つけ続ける



10.05.10

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あきゅろす。
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