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朽ち果てる鼓動
生物は心臓によって生きている。
鼓動が止まれば生物は死ぬ。
では、心臓が止まっても生きている自分達は、生きているといえるのだろうか。
心臓が止まっても生き続けるオレ達は何故、人と同じ象をしているのだろうか。
オレは神に問いかける。

「どうして人の姿をとった?」

神は淡々と答える。

「人の心を理解したいから。喜びを悲しみを快楽を苦痛を。全てを理解したいから俺は人の姿をとった」

一息に、興味無さげに神は告げた。

「人と同じ形で人と同じ事を考え、人の思いを感じ共感する。そうすることで俺は人を愛することができる」

オレに神の愛し方は上手く理解できなかった。
神が人の象をとることは残酷だ。
どんなに愛した者がいようとも、決して同じ時間を歩むことはできない。
それよりもまず、破壊神であるオレは“人”という生物を受け入れられない。
それなのにオレは、受け入れることができない“人”と同じ象をしている。
その事実が気持ち悪くてしょうがない。
嫌悪感が拭いきれない。
“人”が生きる為に必要な心臓。
何故それがオレの中に存在しているのかが理解できない。
心臓の音がする。
鼓動が煩い。生きながらにして死んでいる、無意味に“生”を繰り返す、神という存在。
延々と永遠に繰り返す。
いい加減、うんざりだ。
いっそのこと終りにしてしまいたい。
鼓動が聞こえる。
心臓が動いている。
吐き気がする。
鼓動が煩い。
煩い。
うるさい。
――止まってしまえ。

「止めてほしいか?」

いつのまにか、目の前に神がいた。

「止めてほしいのなら止めてやる。お前が望む“死”を与えてやる」

神が手をかざす。
それはまるで死神の鎌。
目の前に“死”が、憧れ続けていた“それ”が有る。
オレが憧れ続けていたものが、望んでいたものが、手の届くところにある。
それなのに、死にたいとあれだけ願っていた筈なのに。
オレの中に矛盾した答えが有る。
死にたいのに、死にたかった筈なのに何故。
何故、こんなにも死ぬのが怖い?
何故、こんなにも生きることに執着している?

「―オレは、」

顔をあげると神は泣いていた。
顔色も変えず、声も出さず、ただ涙を流していた。
いつか見た光景だと思った。
次の瞬間、記憶の奥底に眠っていたモノが蘇ってきた。

其れは世界が作り直された時のこと
オレは涙を流す神を抱きしめていた
左と右、両胸から鼓動を感じる

『―オレはお前と共に世界の終わりを見届ける』
『先は永い…お前にとって人の姿をとることは辛いことだろう?それでも、一緒にいてくれるのか?』
『確かに、人の姿は辛い。でも、お前の鼓動を感じることができるなら、何時までも耐えてやる。約束だ』

オレと神は泣きながら――



オレは思わず神を抱きしめた。

「―ごめん」
「なにを謝る?」
「オレはお前を置いていくとこだった。お前と共に世界を見届けるって約束したのに」
「…忘れてたよな」
「ごめん」
「辛いなら、辞めてもいいんだぞ」
「お前が辞めるまでは、辞めない」
「意地っ張りめ」
「お互いさまだ」

お互いに小さく笑って、二人で泣きながらキスをした。
抱きしめた神の鼓動が聞こえる。
オレの鼓動も神に聞こえている。
たとえ鼓動が途絶えようとも、オレは生き続けるだろう。
世界を愛する神と共に、世界の終わりを見届けるまで。






イメージ曲 オーダーメイド/らっど
10.09.09

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あきゅろす。
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