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荒んだ想いと歪んだ視界
リビングで読書していたカタツムリを見て、MZDが首を傾げた。

「お前って、メガネかけてたっけ?」
「あー…」

視線を本に向けたままでカタツムリが答える。

「視力落ちたから、本を読むときだけかけてる」
「落ちるものなのか?マスターズなのに」
「人と同じ構造にしたのはアンタだろ」
「そうだったっけ?」

皮肉っぽく笑ったMZDは、カタツムリがかけている黒渕のメガネを外して、自分の目にあてがった。

「うっわ、景色歪んでる…よくこんなモンつけてられるな」
「MZDだってメガネしてるだろ」
「俺のは伊達メガネだ。つか、こんだけ度が強いってことはかなり目が悪いってことだろ?メガネ無しで見えるのか?」
「ぼやけはするけど、見えないことはない」
「ふぅん……俺の力で治してやろうか?」

外したメガネを手に持って、MZDは妖しげに笑う。

「このままでいい」
「なんでだよ」
「鮮明じゃなくていい。ぼやけたくらいが、丁度いい」


ぼやけたままでいい。
鮮明になればなるほど、世界は汚いと実感してしまうから――


ヒヤリとしたものが首筋に触れた。
顔をあげると、MZDの足元から伸びる影が鎌の形をしているのが見えた。

「俺の世界を侮辱するな」
「――人の心を読むなよ」
「俺の世界は汚くなんかない」
「そんなわけないだろ。世界は綺麗なんかじゃない。アンタが創ったこの世界は――」
「黙れ!!」

鎌が首に食い込み、生温かい液体が流れ出す。

「エム…」
「これ以上なにか言えば殺す」

鋭い眼光が、彼が本気だということを証明していた。
握りしめられたメガネは粉々に砕け散って、MZDの足元でキラキラと輝いていた。
彼にとっての世界は、あの硝子のように輝いて見えるのだろうか。

――そんなはずはないのに。
この世界は汚くて汚くてどうしようもない。
そんなことは知っているはずなのに。
彼は認めようとはしない。
神なのに認められない。
神だから認められない。
彼は認めようとはしないのだ。
いや、それは自分も同じか。
現実を見たくなくて目を反らすのは、認めていないのと同じだ。

「――俺の世界は、綺麗じゃないとダメなんだよ」
「……神が理想にすがるなよ」

理想にすがらなきゃ俺は存在していられない、とMZDは静かに泣いた。










10.02.28

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あきゅろす。
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