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神様/ 恋愛総合化




 私とその男が話していると、ツインテールの子が言った。

「待ちなよ、それじゃあ、学会側はそもそもその昔話を認識してるってこと? その神様を、認めていたっていうこと?」
 金髪の子は無言のまま、私を見た。
鋭い目付きで見詰められている。
「答えないと、あの子をおいてくとかなんとかの話も聞いてやらない」
カグヤが言うと、男は、ふっ、と目元にあるシワを歪めて笑った。

「いいだろう。
それにはまず、学会の意義を話さねばならない」

「意義……?
運命のつがい、とかなんとかで、民を幸せにするんでしょう」

カグヤが投げやりに答えると、男は否定するでもなく話を続けた。

「我々の学会の目指した恋愛総合化、という意味は、恋愛を社会に総合的に纏めることにある。みんなが平等に恋愛を享受し、みんなが幸せになる社会、これが学会の存在意義だ」

私はそれを聞いたとき、なんとなく──気持ち悪いな、と思った。
けど、言えなかった。
誰も、言わなかった。

「実は、この意義が出来たのは最近だ。44街が出来るよりずっと前は、一人時間、などといい、一人一人が尊重されていたし、リアルが充実している者だけが恋人を作ることが多かったため、リア充なんて言葉で例えられ、爆破されていた。今とは真逆の思想なのだよ」

「信じられない!」
カグヤたちが各々驚く。
女の子も目を見開いて驚愕していた。
リア充……昔聞いたことがある。
そのときにも爆撃があったなんて、知らなかった。

 今とは真逆。
しかし疑問がある。
さっき聞き流していたけれど、神様は、リア充に話しかけられるのが嫌だった……?

「あれ?」
みんな同じように疑問を持ったらしい。
カグヤが質問する。
「ねぇそれっておかしくない? 
なんで今は、恋愛を強制してんの?
神様も自分を差し置いて孤独じゃない人が嫌いなんでしょ? 
学会は神様を認識してるって──」


 運命のつがい、恋愛の強制。
孤独を否定し、人々の間にある愛を賛美するように思える。それどころか今の学会は誘拐に手を貸し、嫁市場の斡旋までしているのだ。
明らかに、リア充を目指している。
 それも生半可な覚悟じゃない。


店の曲がアップテンポなものに変わった。JPOPのアレンジらしい。

「さぁ。俺は『会長』じゃないんでな」
男は面白そうに笑って言う。

「ただ『会長』が言うには、『魔の者』を遠ざけるには、幸せな気が必要だからだとさ……『前の会長は』そこまで必死じゃ無かったんだがね」


「前の会長……」
女の子が何か考え込む。
「あの家が、ママが、じかに攻撃されるようになったのも会長が変わったときからだ」

 そういえば、学会が今のかたちになる前の時代があったって、アサヒも言っていた。観察屋は、その頃にはまだ、マシだった。少なくとも今のように私が四六時中観察されていることは無かったはず。たぶんだけど……いや、とりあえず、あんなに強制的に恋愛条令が施行されたのは近年だ。それは確かなことだ。
そうだとするなら、それはやはり何らかの転機が学会側にあったのだろう。

「質問には答えた、悪魔なんて言い方が悪かったが、分かりやすいと思った。さあ、帰れ」

男が手を振り、カグヤたちを追い出すようにする。
「ちょっと、娘にひどくない!? 知らない妹が居たとかさらに初耳なんですけど! それに結局神様ってなんなのよ!? なんで、その子の、……子孫でしょう? 称えられるんじゃなかったの? 学会まで……そんな、突き放すような」

 男の表情が、一瞬曇る。
彼は三人に近付いて驚異の握力でそれぞれの首根っこを掴む。猫みたいだ。
「────さらばだ」
 「キャーッ!」
 三人が襟を押さえてじたばたするも、抵抗虚しくつまみ出され、出口まで体が向かわせられる。やがて呼び鈴が鳴り、ドアの向こうに投げ出された。




「……コクってからでは遅い」

「パパ」

女の子はじっと、パパを見つめる。

「二人きりになれたな、娘よ」

「パパがあの家に来ていたのを私は知ってる。学会が変わったのは、あの呪い──キムのせいなんだよね?」


─────────────────

投稿日2021/2/15 11:12 文字数1,610文字

─────────────

 どうやら、俺は眠っているらしい。
──闇のなかで、微かに、誰かの声が聞こえている。
誰かの、何かを訴えるような、逼迫した声。

責めて、居るのか?
あぁ…………
そうだよな。
赦せなくて、当然だ。
赦せないよな。
俺を見て、笑ってくれる、なんて、
そんなの、都合が良すぎる。
わかってたんだ。
俺が、壊したんだから。
わかってたんだ。

あいつが、あんなことがあってなお、何も感じずに俺を赦すなんて、そんなわけがない。


───こうやって、目を閉じてると、
思い出す。

「ずっと待ってたのに」

 あいつの、責める声が聞こえるような気がする。


「待ってたのに、ずっと、待ってたのに……」

お前は、待ってくれていた。
ずっと、たぶん俺が気付かない間も。
ずっと。



───出ていけ!!!


……あぁ。
わかってたんだ、ずっと。
逃げてたわけじゃない。だけど、
 いつの間にか、気付かないフリをしていたのかもしれない。
 こうやって、目を閉じてると、思い出すんだ。

「待ってたのに」

 ──俺はなぜ、あいつを救えなかったんだろう。何度考えても、何度も考えてしまう。
それが嫌で、目を背けた。
どう背けたところで、どうしたところで、ずっと、結局は、考えてしまっていたけれど。
「どうして来なかったの?」 
「待ってたのに!」

──考えても、考えても、進めないのは、考えていれば、何かを考えなくて済んだから。

 もしもあれが、俺が背負う痛みなら、あれが、俺を待つ宿命なら。
そこにまだ、 マカロニが居るんだ。
此処に。
 俺が逃げ出すかどうか、じっと、見ている。
「どうして、    」

あの家を見ていると、思い出す。
あの子を見ていると、思い出す。


俺はずっと、他人を好きになれることを……当たり前に思っていた。
 誰だって他人を好きになれるんだって、当たり前に思って、いい気になっていた。
幸せなんて、誰にでも当たり前にあるんだと、どこかでは思っていた。
 例えばその当たり前の幸せが無い者が居るとして、どれだけ惨めな思いをさせられるのかって、考えたことはない。
観察屋をしているときも、そうだった。
あいつが居なくなってから、いつの間にか、とりあえず生きていくことに必死になって──それどころじゃ無かった。
 あのときの俺なら、きっと、誰かの当たり前の幸せを奪っていても、それでも、ずっと、気付かないままだった。


『俺が奪ってしまったもの』が、そこにあるってことに。

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