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運命
「実は私の家、ハクナの構成員なんだ。だからだと思う」

 カグヤが言った言葉に空気が一瞬凍りつく。アサヒだけは、なにか察していたように頷いた。

「そうか」
カグヤは慌てたように手を振る。
「あ、私は、そんなに関係ないんだよ? お父さんとかがね? ちょっと特殊というか……恋愛を推進してるというか」

カグヤにとってあまり愉快な話ではないのだろう。それに、カグヤの家は私たちが戦っている相手、圧力をかける側を背後に持っているから気を遣っているらしい。

「でも、だからこそ尚更、私の居場所が無いみたいで嫌……だから」

 だんだん声が小さくなっていくカグヤに代わるようにアサヒが言った。

「実は俺は、観察屋をしていた。代金をもらってあちこちから対象を観察していたが、クビになった。お前の友人たちももしかしたら、俺らの仲間が密告したからかもしれない」

「……へぇ」

今度はカグヤの表情がひきつる。

「お互いに、いろいろあるもんだね」

 アサヒがカグヤの友人の家に関わったかはわからない。それでも少し複雑な思いはあるはずだ。私もそう。横でじっとしている女の子もそれぞれ思うことがあるだろう。けれど、すべてをいちどに吐き出してどうなるわけでもない。
  ちょうどそのときカグヤの祖父からこっちに来て手伝ってと号令がかかり、アサヒが重いもの(家具?)を運ぶのを手伝いに降りて行った。

 その背中を見つめながら女の子はしばらく考えこんでいたけれど、カグヤに口を開く。

「私のママは、強制恋愛に反対してるの……だからハクナにとっても邪魔者かもしれない」

カグヤは彼女の手を握り、そんなのは私たちには関係ないと言った。
「でも、そっか、私たちみんな、秘密があるんだね」
少し悲しそうにカグヤが言うと、みんな、はそうだねと口々に言い頷いた。

「そういえばカグヤ、椅子さんは──」

「あぁ、まずは汚れをきれいにしなくちゃいけないから。まだかかるけど、大丈夫、きっとよくなるよ」
ホッと胸を撫で下ろす。
女の子が机の横でなにかパンフレットを見つけた。

「『あなたは運命を信じますか?』」

仲良く手を繋ぐカップルたちの写真が並ぶ表紙に大きく地球が描かれている。
カグヤは苦笑いしながらそれは親からもらったと言った。

「恋愛総合化学会たちは、今『運命のつがい』をテーマに運命を探してるみたい。運命のつがい、運命の人、いると思う?」

「運命は決まっているものじゃなくて、出会うものだと思う。
相手が生れたときから決まっているなんて、予言で恋をするなんてありえない」

心が運命にプログラムされてたから好きにならないといけないってあんまりだ。
最初から自由なんかなかったって、人生の全部がお芝居を演じていただけというようなものだ。それも、好き嫌いという固人を決める大事な部分さえ選ばせてもらえないことになる。
それをいくら美化しても、美しくないように感じた。

「運命とかそんなのじゃなく、ちゃんと自力で学習するべきじゃないかな」


私は強く否定した。運命だかなんだかというわからない予言でつがいを選ぶなんて残酷だ。
 そんなものがあるのならみんな誰も自分で好きにならなくて良いし、心が存在する意味もない。
 未来の恋人が見えるなら、恋なんか存在する必要が無い。ただ本能に従うだけじゃないか。
 けれど──椅子さんと出会うことは、運命な気がしていた。
人間同士がすべて決まっているという意味でないのなら、運命はあるのかもしれない。

「私も……運命があるなら、恋愛性ショックの発作にも、こんなに悩まない。家だって……ママだって……最初から救われる道があったなら、こんなことにはならなかったんだ! 
もしもそんな運命があるのなら戦わなくちゃ。
好きな人も嫌いな人も、運命が決めるんじゃないって、証明したい」


カグヤはちょっと驚いた、と目を丸くした。
「周りのみんなは、これを聞くと素晴らしいことみたいに言うから、驚いた。

…………遺伝子に操作されてますよって聞いてるだけの、何が素晴らしいんだろって」

ぽつり、こぼされた本音と共に、カグヤの瞳から雫が落ちた。

「私も、遺伝子に操られて生まれて、遺伝子や占いで相手が決められて、そんな、運命──むなしいだけだと思ってる。都合のいい妄想だよ。父はずっとそれを探してる。
相手を好きになろうとせずに、運命を探してる。運命があるなら、予言があるなら、恋愛なんかいらないのに」

 カグヤが近くの本棚から、アルバムを取り出して、机の上に広げる。
クラスの集合写真らしいが、リア充……クラスメートのほとんどには×がつけられていた。

「これ──クラスのやつらはみんなやられてるの。恋愛に操られ、ふわふわした運命を信じて化け物の手下になった。

 私は違う。生き残らなくちゃ。楽しい青春時代、なんて時代はおじいちゃんお婆ちゃんのときに終わったんだ。

操られたりしない。戦うの」

「私も」

「私も」

 三人が話し合っていたそのとき、下から「そろそろ支度が出来るよ」とカグヤの祖母が呼んだので、みんなはぞろぞろと一階に向かった。


(PM10:041月1日





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投稿日2021/1/1
22:57 文字数2,046文字






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