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「はいっ、今日の夕飯は春巻きです」
 テーブル中央には大皿に詰まれた春巻き、そしスープ。  
「おぉー」
女の子が手を叩く。
ちなみに監察さんはお風呂に入っていた。

「あと、こっちが水餃子で、しゅうまいね」
 椅子さんは私の隣に座って……くれたら良かったけれど、乾かす為にベランダ際だ。今日は良い天気だし、あとで一緒に星を見よう。きっときれいに見えるはず。
三人ぶんの箸を揃えると、監察さんより先に食べることにした。女の子は美味しそうに食べるし、私もなんだか嬉しい。

──けれど、ふと彼女の箸が水餃子に向いたまま止まった。
「ママ……」
女の子は少し切なそうに呟く。

「ハクナが狙っているのはうちだけだと思ってた」

私も恋人届けが受理されなかったことを思っていた。確かに、あの様子では何年も経ってしまう。だけど……
……私は悪魔だ。
ただでさえ笑い者なのに、この前のスライムのことで更に恐れられてしまったかもしれない。
──悪魔が届けを受理なんて本当にされるんだろうか?
尚更良い理由を見つけたかもしれない。
考えてから一旦思考を止め女の子に提案する。

(どうなるかはわからないけれど、私は悪魔だよ。
悪魔って、呼ばれて、みんなの中にから最初から居ないんだ……

私はしがらみなんてないんだ。





「ママを…………探しに行こ?
ハクナも、きっとなんとかなるよ! 

私は悪魔だもん。誰も怖くないよ!」

胸を張って言うと、女の子は少しだけ安心したように笑う。

 ちょうどそのとき、びーっ、と音がして隣の部屋の電話機から紙が吐き出される。
席を立ち回り込むと足元に紙が散乱していた。
 目についたのはプリンを食べる女の子と、いびつに歪んだ悪魔の絵が貼り付けられた、コラージュ写真。
────かわいいですね?

小さくメモが書かれ、連続で来たあとで、また「愛してる」「別れないからな」
「やりなおそう」「愛してる」「愛してる」
紙が連続で吐き出される。
それから、エラー音がした。
「カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテクダサイ」

「うわっ! もう紙が……」

女の子は私の方まで向かって来て少し不安そうだった。

「悪魔だからね、仕方ないよ」

私はそう言って返すのが精一杯だ。
  うん、まずは監察さんにお願いしてみよう。
それから────それから────

そのとき、外で大きな音がした。
床や壁がわずかに揺れる。

「え?」

ベランダの椅子さんを抱えて窓を開けると
サングラスをかけたやや顎の突き出た長髪の男が立っていた。

「────やぁやぁ! 失礼! 我が名はコリゴリ! 此処に、アサヒは来ていないかハァ?」

「アサヒって、誰ですか?」

「監察屋だよ────といっても、不祥事を起こして先日クビになってるんだけどホォ」

もしかして────そう思いかけたとき、
監察さんがコリゴリの背後からやってきた。
「俺なら此処だ」

「おーんや、アサヒィ!!? 」

「俺に用事か? それともその家になにか用事か?」

「同・じ・こ・と・よホォ! あれで!」


 見上げると、彼の背後のビルの屋上にはヘリコプターが止まっている。

「証・拠・隠・滅」


 その言葉を合図にヘリコプターはいきなり浮き上がり、こちらに向かって飛び始めた。
───────────────

2020/10/5 13:38

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