ページ:21 「はいっ、今日の夕飯は春巻きです」 テーブル中央には大皿に詰まれた春巻き、そしスープ。 「おぉー」 女の子が手を叩く。 ちなみに監察さんはお風呂に入っていた。 「あと、こっちが水餃子で、しゅうまいね」 椅子さんは私の隣に座って……くれたら良かったけれど、乾かす為にベランダ際だ。今日は良い天気だし、あとで一緒に星を見よう。きっときれいに見えるはず。 三人ぶんの箸を揃えると、監察さんより先に食べることにした。女の子は美味しそうに食べるし、私もなんだか嬉しい。 ──けれど、ふと彼女の箸が水餃子に向いたまま止まった。 「ママ……」 女の子は少し切なそうに呟く。 「ハクナが狙っているのはうちだけだと思ってた」 私も恋人届けが受理されなかったことを思っていた。確かに、あの様子では何年も経ってしまう。だけど…… ……私は悪魔だ。 ただでさえ笑い者なのに、この前のスライムのことで更に恐れられてしまったかもしれない。 ──悪魔が届けを受理なんて本当にされるんだろうか? 尚更良い理由を見つけたかもしれない。 考えてから一旦思考を止め女の子に提案する。 (どうなるかはわからないけれど、私は悪魔だよ。 悪魔って、呼ばれて、みんなの中にから最初から居ないんだ…… 私はしがらみなんてないんだ。 ) 「ママを…………探しに行こ? ハクナも、きっとなんとかなるよ! 私は悪魔だもん。誰も怖くないよ!」 胸を張って言うと、女の子は少しだけ安心したように笑う。 ちょうどそのとき、びーっ、と音がして隣の部屋の電話機から紙が吐き出される。 席を立ち回り込むと足元に紙が散乱していた。 目についたのはプリンを食べる女の子と、いびつに歪んだ悪魔の絵が貼り付けられた、コラージュ写真。 ────かわいいですね? 小さくメモが書かれ、連続で来たあとで、また「愛してる」「別れないからな」 「やりなおそう」「愛してる」「愛してる」 紙が連続で吐き出される。 それから、エラー音がした。 「カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテ、クダサイ、カミヲ、イレテクダサイ」 「うわっ! もう紙が……」 女の子は私の方まで向かって来て少し不安そうだった。 「悪魔だからね、仕方ないよ」 私はそう言って返すのが精一杯だ。 うん、まずは監察さんにお願いしてみよう。 それから────それから──── そのとき、外で大きな音がした。 床や壁がわずかに揺れる。 「え?」 ベランダの椅子さんを抱えて窓を開けると サングラスをかけたやや顎の突き出た長髪の男が立っていた。 「────やぁやぁ! 失礼! 我が名はコリゴリ! 此処に、アサヒは来ていないかハァ?」 「アサヒって、誰ですか?」 「監察屋だよ────といっても、不祥事を起こして先日クビになってるんだけどホォ」 もしかして────そう思いかけたとき、 監察さんがコリゴリの背後からやってきた。 「俺なら此処だ」 「おーんや、アサヒィ!!? 」 「俺に用事か? それともその家になにか用事か?」 「同・じ・こ・と・よホォ! あれで!」 見上げると、彼の背後のビルの屋上にはヘリコプターが止まっている。 「証・拠・隠・滅」 その言葉を合図にヘリコプターはいきなり浮き上がり、こちらに向かって飛び始めた。 ─────────────── 2020/10/5 13:38 [*前へ][次へ#] |