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人が人を好きになるのは才能でしかない。いじめだって好きなやつと嫌いなやつが両方いるから生まれる文化。
つまりいじめを無くすには誰も好きにならなければ良い。
 いじめにはそれなりに理解はあるし、いじめの大半は仕方ない理由があったという意見になると思ってはいるけれど────
これは、いじめじゃないということについては納得がいかない。

ドキドキ、突き合い、血を流せ!!!

「ほら告白だぞ! スキダだぞ! 早く戦って来いよ」

 保育園でも野蛮な遊びが流行っていて、みんなが口々にごっこ遊びをしていた。
ごはんの時間になるまで、近くの席に座ったまま私は空を見る。
きょうせいれんあいじょうれい、がかけつされると、みんなが誰か 好きにならなくてはいけない。

去年からたまに、しょうらいのゆめ、とかでお絵描きする課題があったけれど、その年からは、好きな人、も描かなくてはならないので沢山の子が困惑していた。
数人は家族や友だち、自分の顔を描いていたけれど────


私は真っ白。
朝から、ずっと、描こうとしてるけど、好きな人なんて考えさせて、これがいじめじゃなくてなんだというのだ。

「好きな人って、ことは、嫌いな人がバレてしまう」そう思ってしまって、呼吸が急に速まって、速まって、目の前が真っ白になる。動悸がする。もし、好きな人を適当に描いて嫌いな人がバレたら…………
心臓がばくばくうるさい。
目の前がチカチカする。
体温が、すっとなくなり、冷えていく。からだが震える。
こんなこと、わざわざ、きょうせいするなんて。

「す…………き、な…………はぁ、はぁ、はぁっ、はぁ、っ、す好きな、あ…………」

ガタガタ、ガタガタ、震えがだんだん大きくなり、席から転げ落ちた。
嫌いな人と好きな人をえらんで、選ばなかった嫌いな人側がどういう態度をとるのかは知っている。
これは、人を選ぶ為の勉強だ。
人の価値を決める為の課題だ。

先生が、大丈夫ですかぁ? と聞いてくる。
お前のせいだろ、と口にできないので、ただ口から泡を吐いていた。




ひた、ひた、と肌に冷たい感触。
目が覚めると、病院。
医者が聴診器を当て「恋愛性ショックだね」
と言ったていた。

「気分はどう?」

「いい、です。恋愛性ショック?」

どうやら私は運ばれたらしい。
診察用のベッドは固くてあまりいい寝心地ではないけど、腕にささっていた点滴のおかげなのか、ちょっと楽になっている気がする。

「そう、誰が好きか、とか恋愛の話題になるとショックの大きさから気絶してしまう子がたまに居るんだ」

「……そう、ですか、保育園のかだい、で好きな人を描いていました」

私を此処に連れてきた先生が、安心したように良かったねと頭を撫でてくる。いや、お前のせいじゃないか。

「保育園の段階からそんな難しいことを聞くものではないと思います」

先生はそういいながら苦笑いした。

「前の年代は、とにかく『好きコミュニケーション』といって、『好き』さえ言えば丸く収まるというコミュニケーションを築いていたんだ。反面で『嫌い』をないがしろにして、叩いた」

「ないがしろ?」


「嫌いって、言葉を使う人は許しませんってことで、聞かなかったことにしていたんだよ、なかったことに」

「そう……」


 私たちより前の世代は、とにかく、好き、以外の語彙が無いんじゃないかというくらい「嫌い」を許さなかったらしい。
つまり、先生たち、『好きコミュニケーション』に染まった大人が育てるのが私た
ち。

 私は嫌い、が何かと好きが何かということに極端になって生れた。近所にも親戚にも、好き、に拘っている人ばかりがいて世間的に「嫌い」は禁句だった。
 ただし、ママは変り者で嫌いな恋愛物に、嫌いと言ってる。
嫌い、嫌い、聞いてると安心する。
嫌いが滅びかけてる現代で、嫌いを言える。なんてすごいんだろう。

「また発作が起きることがあるでしょう、けどそんなに気負わず、恋愛性ショックは、よくあることなんです」







「おーい、大丈夫ー?」

景色が滲み、うっすら誰かの声がして、意識が覚醒する。

「あ……おねえちゃん」

寝て居たらしい。部屋は極力片付けたんだけど、頭の上からひらりと何かが舞った。
「え?」
いや、体の周り、私を取り囲むように、紙があちこちにある。
電話の棚の下で寝ていたようで、頭に載ってたのは愛してるよぉぉぉと書かれた紙。
電話から送られて来たらしい。
私を囲む紙にも、同じように愛してるが書かれたりおねえちゃんの盗撮写真だったりが貼られている。
「うわっ!!!?」

「ごめんね、今片付けるから」

彼女は無表情のまま紙を慣れた様子で纏めて束ねていく。

「お、ねえちゃ……こわくないの?」

「慣れたから。それよりこわくなかった? こんなところで留守番させて、ごめん」
「うん……平気」
がさがさと紙を纏める音。私の周りの紙がどんどんまとめられていった。

「ハクナが、こんなとこにまで来ていたなんて、ちょっとびっくり」

「ハクナ? たしかママを誘拐したとかって言ってた……」

「うん」

頷く。

「ハクナは名前通りの、脅迫、恐喝専門部隊。チンピラというより、恋愛総合化学会の専門部所」

「──詳しいね。あなた本当に保育園児?」

「えっ、今は小学生だよ!」 

「えっ! ごめんなさい」

彼女は目を見開いて両手で口を覆う。
……もう。昔から言われるけどまた間違えられてた。

「脅迫のためにママを誘拐したんだと思う。おねえちゃんも、ハクナに目をつけられてるんだね」

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2020/9/30 23:06 文字数2,007

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あきゅろす。
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