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ハンバーグと召喚師


 唐突だけどハンバーグの話をしよう。
みんなはちゃんとハンバーグを作れる?
 世の中にはハンバーグ自体をまともに作れない人もいるし、それ自体は仕方がないことだ。

 
でも、さすがに限度があるよね……

 私は机の前に置かれたそれに絶句していた。
「これは、何」
「何って、ハンバーグだ」
 アサヒからそう言って誇らしげに差し出されたのは……
 何度見たところで生肉の塊。
こいつ料理する気あるのかと言わんばかりである。
「いや、私もね、焦げてるとか、砂糖と塩の量がおかしいならわかるよ?これって明らかにやる気無いよね」

 舐めてた……
コイツの才能ってやつを。
今日久々に訪ねてきたかと思えば、たまには飯を作ってやる!と言って台所に立ってくれたまでは良かった。
けど……出てきたのは生肉の塊だった。

 私が「椅子こん!」の第一話の中で作ったハンバーグのときと同じとかそれ以上のものとは言わないけど。
なんか、こう……
ここまでヤバイと素直に作らせる方も馬鹿だなと思ってしまった。
 こんなモノを見せられたら、なぜか私まで謎に罪悪感が沸いて来ている。

「悪い。修行ばかりだったから、そもそもまともなもん食ったことってそんなになかったわ」

 アサヒは朗らかに笑って言った。いや修行だって食事は大事でしょうに!
どっかの宗教の食事制限じゃないんだから。
殺生を禁止されて肉料理の経験がないとかじゃないんだから。

「で、本業の召喚師の方はうまく行っているの?」

 もういいや、と改めて私は近くの段ボールから玉ねぎを取り出す。冷蔵庫を開ける。
幸い、まだ肉の塊でしかないから、ちょっと手を加えれば形になるだろう。
 肉、玉ねぎ、パン粉、卵、塩や砂糖を入れて混ぜる。
遠い昔にお母さんが作ってくれた気がする。
ちょっとだけ懐かしい。

「お、そうやって作るのか」
こねていると、アサヒが覗き込んできた。
私はボールに手を突っ込んだままで尋ねる。
「ねぇ、学校行ってたんだよね? 家庭科が組まれてるはずだけど……」
「え? さぁ、ああいう実習ってうまいやつが勝手にやってるからな」

思い返してみたら、確かにそうかもしれない。
得意な子が手際よくさっさと仕上げてしまって、
その他は皮向きとかばかりみたいな。

「で、でも! そのあと家で作ったりしないの?」

学校だと充分に作れなかったけど、自分でもやってみたい!と思って家でこっそり作ってみたり。

「しない」
「そうですか……」

暖めておいたフライパンに丸めた肉を投げ入れつつ、私は言う。

「私は実習でうまい子が目立ったり、ちょっとしか材料なくてあまり食べれなかったりするから、

 帰って晩ごはんで作ってたなぁ」

昔。
──ずいぶん昔の話だ。
今となってはただ、作業と化していてありがたみも忘れかけている。
食事の中身さえ、アイツに支配されてしまっている今じゃ、ただ戦う合間に食べているだけだ。

「そうなのか?そのときから自立心?があるなんてすげぇな」
何に驚いてるのかわからないけど、彼は目を丸くした。

「ありがと」
なんだか恥ずかしくなった私は、小さくはにかむ。

──自立。
いや、自立というほど何かに甘えてきたこともない気がした。
思えば、あの頃から心の何処かで予感していたのかもしれない。

 いつかみんな居なくなって、私は独りになる。
そんな予感があった。
だから誰とも深く関わらなかった。
 予測通りに私は孤立して、ずっと、何年も独りぼっちだった。
それで良いと思っていたし、孤独以外を望む日が来るとさえ思っていなかった気がする。

「でも私──思うんだ。
孤独になれば、誰にも頼らなければ、自立してるなんて間違いだって」



「私は──たとえ好きな人と結ばれる程度でも
多くを犠牲にした……
結局、世界中を犠牲にしなきゃならなかった。
けど……でもね、それこそが本当の自立で。

今は、これで良いんだって気がするんだ」


2023年8月30日AM1:20

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