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甘い誘惑


 最近、椅子さんがそっけない。最近もまた、怪物が出たりいろんなことが続いてあまり触れ合う機会がなかったのでそう感じるのだろうか。

ちょうど5月のはじめはゴールデンウィークだし、この機会に思い出を作るのも良いかもしれない
「うーん……」
ベッドでごろごろ回転していると、触手体操中だった椅子さんが、少し不機嫌そうにガタッと言った。

「あ、うるさかった?」

怒らせただろうか、なんだか距離感が思い出せない。前はあんなに椅子さんにべったりだったのに、椅子さんの気持ちがわからない。表情が見えにくいぶん、余計に何を考えているのかわからなくなりそうで、そう思ったらなんだか泣けてきた。
「うー……」

──ガタッ、ガタッ、ガタ……ガタッ!!

椅子さんは慌てて弁明を考えては、焦る。両触手を伸ばしてきて、焦った様子で私の頬を包んだ。

「う…………私に泣かれると、椅子さんは困る、の?」

えへへ、少し嬉しくなって触手に自分の手を重ねる。そうだった、椅子さんがずっとそばに居ると言ってくれたことを忘れない。どんなに迫害されても血で汚れても、椅子さんだけは変わらなかった。

「そういえば、新婚旅行とかって、まだだったよね」

家具と私。物と人間はそもそも恋愛とすら認められていなかった歴史の方が長い。届けを提出したけど、まだ式とかを
挙げてくれる式場などの整備が少なく、法律上の夫婦としての道のりはちょっと険しい。
それでもいつか、この差別がなくなって人間と、人間以外との付き合いも増えていったら世界はもっと素敵になると思う
。同性婚だって増えてきたんだ。対物性愛だって、いつかきっと。(2021/8/2915:51)

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あきゅろす。
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