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欲したのは目が眩むほどの陽の光
待ってるね
なんだろう、暖かい光。
なんだろう、冷たい空気。
だれだろう、泣いている人。

強大な術式により、暴れていた九尾が赤子へと収まっていく。
それをした者の顔色は悪く、眉が苦しげに寄っている。
それでも赤子を安心させるように、口元は笑みを浮かべ、優しげな瞳で赤子に何事かを告げた。

九尾がすべて収まろうとした瞬間、術者等の体が傾く。
そこで赤子は里中に響くような、大きな泣き声をあげた。





「ナルくん、いいこ〜」
「ウザイ」

ぎゅうっと苦しいくらいに抱きしめ、男は子供の頭を何度も何度も撫でる。
口では嫌がってみせる子供の顔も、どこか嬉しげだ。
柔らかな雰囲気に包まれる空間。

その終わりを告げたのは一匹の鷹の鳴き声で。
忌々しげにそれを睨み付けた子供に、男は苦笑を漏らした。

「二人で待ってるから」

男が愛しむように子供に笑いかける。
二人で、とそこをわずかに強調した。
大事なあの人が、大切なあの人が、今日は来てくれるのだ。
だからこそ、二人で今か今かと待っていた。
子供はちらりと男を振り返る。

「いってらっしゃい」
「いって、きます……」

柔らかに投げかけられた言葉に、子供は少し照れたように視線を外す。
一歩足を踏み出し、男に背を向け小さくつぶやく。
男が瞬きをした後には、子供の姿はなかった。

「行っちゃったのね」
「ああ、ちょうど、今ね」

一拍置いて、一人の女性がさっきまで子供が居た辺りに降り立つ。
気配を探りながら来て居ただろう彼女は、それでも辺りを見回して小さくため息を吐いた。
男もそんな彼女の様子に、苦笑をもらす。
二人はそっと、子供が消えた先を見つめた。
日が落ちかけている夕焼けの空に、静やかに浮かぶ月。

「それじゃあ、ご飯でも作って待ってましょうか」
「そうだね。ナルくんのことだから、すぐ帰ってきちゃうだろうし、急がないと」

二人は笑い合うと、家の中へと消えて行った。

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あきゅろす。
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