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あなたの月で在るがために
おしごと
「人手不足だ」
「人手不足ですね」
「人手不足だね」
「人手不足だ!!」

総隊長室及び、暗部零班待機室内で四つの声が同じ単語を吐く。
最初の者は暗部に対して、次は解部に対して、三人目が医療部に対して、最後が拷問部に対して、だ。
そのすぐ後に、四人目にそれは必要ないとの突込みが入るのだが、それはおいておいて。

彼らは上位職の責務、下位職が行うはずの雑務、火影のサポートに終われ、うなだれていた。
忍不足は今に始まったことではないが、最近は里が落ち着いて来た所為か、任務が続々と増えていくのだ。
それなのに忍は大して増えやしない。

ため息を吐いて、積み上げられた書類に眼を通す。
それを横目に、紅狗は愛犬と戯れる。
紅狗は頭が足りず、かつ、忍耐力にかけるのだ。
こと拷問以外となると、すべてにたいして我慢が足りない。

おとなしく机に収まり、書類と睨めっこなんて10分ともたない。
ましてや、彼はかの有名な拷問部期待のホープ。
無理に書類仕事などをさせようものなら、罪もない人々を恐ろしい拷問にかけてしまうだろう。
だからこそ、三人は何も言わない。

しかし、自分たちが働いている目の前で、のほほんと犬と遊んでいるのに苛立たないはずもない。
いくらかの書類をよけると、一束終えた彼はよけた分を紅狗へと差し出した。

「紅狗、この任務、任せた」
「ん?おうっ」

書類任務でないのなら、と彼はご機嫌にその書類を受け取り、任務内容に眼を通す。
そこで横からもうひとつの声。

「紅狗、これもお願いします」
「ん?わかった」

そちらを受け取り、少し多いか?と思いながらも、紅狗はそれにも眼を通す。
それもそのはず。
光陽が渡した任務は、通常は暗部二人組から三人組向けの2日分の任務。
影月が渡したのは、単独で可能なものも含むが、普通なら3日掛かる。

「紅狗くん、よろしくね」
「えっ?」

さっきので終わりだろうと、踵を返した所で、書類束の上にもうひと束。
顔を上げるとにっこりと微笑む、白琶。
そして追加された任務は、明らかに自分たちが常に行っている、一般に暗部でも難しいレベル。

あれ?と皆を見回す。
いってらっしゃい、と手を振られてしまった。
そこで気づく。

彼らは進んで書類仕事を引き受けてくれていたのではなく、里外任務の後に書類仕事をしたくなかっただけ。
つまり、自分はいいように利用されてしまったのだ。

「ちょ、さすがにこれは多」
「では紅狗、私たちの代わりに書類を片付けてくれますか」

ごくりと息を飲む。
三つのデスクに天高く詰まれた紙の山。
自分では、いくら時間があろうとも処理し切れない。

「すいません、行ってきます……」
「紅狗」

うなだれて部屋を出ようとしたとき。
光陽の凛とした声に名を呼ばれ、期待の眼差しで振り返る。

「今日中に済ませて来い」

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