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異説・浦島太郎
運命の出会い!?
太郎は、どこにでもいるような、平凡な青年だった。
可もなく不可もなく。
コレといって特技もない、そんな、ありきたりな青年。
趣味は、実益を兼ねた釣り。
コレだって、海岸近くに住んでいる太郎としては、ごくありきたりな趣味だろう。
それに、特技というほどうまくもない。
自分と、年老いた母親とが食べる分が釣れる程度だ。
希に豊漁の時もあるが、そんなときには太郎は、自分たちの分と、親友の勲(イサオ)の家におすそ分けする分を除いて、全て海に返してしまう。
商売にしているわけでもないし、とりすぎても仕方がないと、思っているからだ。

この日もまた、太郎は釣りにやってきた。
いつものとおり、夜明け前から海にやってきて、釣り糸をたれていた。
幸いこの日は大漁で、瞬く間に魚籠(ビク)はいっぱいになる。
いつものように、もっている魚籠がいっぱいになれば、釣りは終了だ。
まだ昼前だったが、太郎は家に帰ることにした。

家へと向かう途中のことだ。
漁師の船が上げてあるあたりで、村の子供たちが数人集まって、何かをしているのが目に付いた。
太郎は何気なく様子を見に近寄っていった。
すると、どうやら子供たちは、何かを棒でつついたり蹴飛ばしたりして遊んでいるようだ。
さらに近づいて、太郎は驚いた。
なんと、子供たちは、一匹の亀を苛めていたのだ。
太郎は、慌てて子供たちに近づき、言った。
「コラ!生き物を苛めちゃだめじゃないか!」
太郎が子供たちをしかりつけると、子供たちは、とりあえず動きはとめたものの、不満をあらわにしている。
「なんだよぉう。こいつ、おまえの亀なのかよ」
一番体格のよさそうな子供が、ほっぺたを膨らませながら太郎に文句をいってきた。
「誰のモノでもないさ。亀は亀だけのものだろう」
太郎は子供たち全員を見回して、そう言った。
それに答えたのはやはり先程の子供だ。
「俺たちが先にみつけたんだ。どうしようと勝手だろ!?」
「そんな理屈があるか。 よし、判った。それなら、この魚を君たちにやろう。魚と交換だ。それならいいだろう?」
太郎は今日釣ってきた魚を、子供たちにわたした。
「えっ!?いいの、こんなにたくさん!?」
意外と素直な子供たちの反応に、太郎はにっこり笑んでみせた。
「いいよ。そのかわり、もう生き物を苛めたりしちゃ、だめだぞ?」
「わかった〜!ありがとう太郎さん!」
魚をもらった子供たちは、去っていった。
太郎もホッと胸をなでおろし、家へ向かって歩き出した。

このときはまだ、この亀が後に太郎の人生に深くかかわってくるとは知るよしもなかった。


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あきゅろす。
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