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< 溺れる犬 1 >

―――都心の一等地に佇む高層ビル。

そこから覗く夜景は、この日本を手にしたと勘違いを生むほどに美しい。

フルスクリーンの夜景を一望しながら、新橋恭平はそこに佇む1人の男を眺めた。

常に不機嫌なその男はいつも紫煙をくもらせては、世の中はつまらないとでも言うように溜息を吐くのが定番だったのだが、今夜はその溜息とも縁がない。



「――――へぇ〜、ずいぶん上機嫌じゃねぇの?轟」

わかりずらい男の"上機嫌"を察知した悪友は陽気な声でニタニタと笑う。

嫌そうに鼻を鳴らした男は黒いバイクのメットを手に踵を返して外への入り口へ向かっていた。


―――その背中を見つめて、我慢しきれず篠崎祐一は、くすくすと笑い出した。




「やっと餌にありつける、ってところかな」


轟のご主人様は手厳しい。
何の働きもしない者には容赦がない。
だが、それなりの結果を出せば頭ぐらいは撫でてくれるかもしれない。

あの不遜で誰にも靡かない男が冷徹なご主人さまに頭を撫でてもらう図を想像して、祐一はますます笑いが止まらなくなった。


普段は"仕事"なんぞ下の者にやらせておいて自ら動くことは全くない城主だが、数日前の一本の電話で心入れ替えたように機敏な動きを見せていた。



「浮かれてんなぁ〜、おい」

吾妻庄治の呆れた呟きに柳竜也が小さく同意するが、心中「まぁ、それもそのはずだ」と4人は意見を一致させていた。

あの冷たい主人が自ら"仕事"の依頼をしてくることは珍しい。

それどころか、これが初めてと言っていい。




―――その分、褒美ははずんでくれるに違いない。


彼らが"仕事"の報告に来た途端、"終わり"を悟った"飼い犬"は尻尾をふってご主人に会いに行ってしまった。

もっとも報告は電話で済ませられたことなのに、性悪な悪友たちはわざわざ"飼い犬"の浮かれようを見に来ただけなのであるから、特に何の支障もない。



「―――要さん。ご愁傷様って感じかねぇ?」

恭平の笑いを含んだ呟きに3人もくすくすと笑って悪友を見送くるのだ。


―――悪友の4人は"飼い主"を持ってから"人間らしさ"を手に入れた友がおもしろくてしかったなかったのである。




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あきゅろす。
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