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< 盲執 >

「ははははっ・・・・!マジかよ!」


庄治が突然、ソファを立って大声で笑い出した。その横で、最後まで傍観していた竜也が、固まったまま轟を見つめている。祐一に至っては、小さくジーザスと呟いて、十字を切っていた。


―――恭平は再びソファに座り直し、轟を見た。


「・・・・あの夜、おまえは久居要にイカレちまったってわけだ。・・・・で一晩“買われて”みたが、それじゃもの足りないって?」

再び、部屋に沈黙が戻り、全員の視線が轟に集まる。4人の鋭い視線に見つめられ、それでも動じることのない冷血漢の男はドカンっとテーブルの上に足を投げ出し、紫煙を吐いた。


そして、ようやく重い口を開く―――。

「―――――昼だの夜だの、んなもん、どうだっていい。・・・・久居家だ?・・・はっ、そんなもん、興味も糞もねぇ」

冷たい声が何の執着も見せずに吐き捨てる。

本能の赴くままに・・・。

しがらみも。

常識も。

モラルも。



―――その全てを引き裂いて。



どうしょうもなく冷めていた男の瞳に、確かに燻る業火の炎を、男たちは垣間見た。


そして、男は尚も語る―――。

「―――ただ、俺はあいつの肉を喰らい、血を啜り、骨の髄までしゃぶっていたいのさ。・・・・あの取り澄ました面張り倒して、強引に俺をぶち込んだ時のあの強烈な熱が、おまえたちにわかるか?・・・・・女なんか目じゃねぇ、最高にたまんねぇよ・・・骨の髄まで痺れて頭がどうかしちまいそうだなんだぜ?」

男たちはゴクリと唾を飲んだ。

雄の顔をした友人は、恍惚とした表情で、しかし、どこかやるせなさそうに呟いた。


「・・・・あいつだけが俺を熱くするって気付いたのさ。―――あいつだけが俺が生きているってことを実感させてくれるってな・・・・・・・」

どこか苦渋に満ちたその独白に、男たちは魅せられた。

冷酷無慈悲、何者にも囚われず、何者にも興味示さない、無欲な怪物。

世の情理から切り離され、いっそ、神々しいほどの存在。

女は皆こぞって足を開き、男は恐れをなしてひれ伏した。誰をも惹きつけ、誰をも拒絶する、常に人の上に君臨し続ける男。


―――だが、その全ての無欲さを覆す、強烈な“執着”を男は見つけてしまったのだ。



―――男が笑った。


低く、低く。

唸るように。


「――――俺はあいつを手に入れる。・・・・そのためならどんなことでもやるだろうさ・・・・飼い犬だろうが、人形だろうが、かまいやしねぇ・・・――――俺はあいつが、死ぬほど欲しい」

男たちは、初めて、緋来轟の本性を見た。ひどく冷淡で残忍な完全無欠の男の正体を・・・。




――――それは“恐怖”だった。

彼らの背中にひやりと汗が流れた。カラカラに乾いた喉がひり付いて、手足が金縛りのように動かない。無欲な男が執着を見つけたとき、各も恐ろしい盲執が生まれるのかと、彼らは思った。


目も離せない強烈な生き物。


――――彼らの前には、なお一層、残忍で冷酷、そして獰猛な美しい獣がいた。




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あきゅろす。
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