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< 欲 >



―――やはり真っ先に口火を切った恭平だった。

残りの3人は、ただ見るともなしに状況を見つめているだけだ。

「・・・久居要、26歳、独身。久居家当主、久居譲と愛人の間に生まれ、以後久居家の次男として育つ。高校を主席で卒業した後、ハーバード大学を卒業。現時点では、久居家の子会社を与えられ、効率的かつ効果的な運営で急速に勢力を拡大中。手掛ける事業は多種多様だが、稼ぎの多くは投資や会社売買に集中。そのため敵が多く、跡目争いもあって、目下緊迫状態を保っている。裏への繋がりも多く、怪しい出来事もあるにはあるが証拠は掴めず、会社自体クリーンと見なされている。―――当然久居要自身も、警察記録では真っ白だな」




恭平は女たちの騒ぐ流し目で、ちらりと対面の轟に視線を送ると、コツコツとテーブルを叩いた。




「―――で、なんで突然、天下の久居家に足を突っ込む気になったわけ?」


しかし、恭平の言葉に轟は何も答えなかった。


―――ただ、紫煙を吹きかけただけだ。


恭平の顔が不愉快そうに歪む。同時にソファの背から体を離しながら、祐一が独白のように呟いた。


「・・・・・久居は昼を牛耳る日本の三大勢力の1つ。北条には叶わずともその勢力は日本第二位の地位を占めている。でも、―――所詮昼は昼。太陽の光のあるところでしか動けない彼らと、闇夜に紛れて動き出す僕たちとでは、全く世界が違う」

祐一は思案する表情でゆっくり、窓に向かって数歩進んだ。

そしてゆっくりと振り返る。やさしげな風貌からは想像できない、鋭い観察眼がキラリと光っていた。

「―――それとも、ようやく昼夜を丸ごと、全部手に入れる気にでもなった?」


「・・・・・そいつはありえねぇよな」っとソファから上半身を起こして、庄治が豪快に笑った。

「こいつに欲はねぇ・・・、大御所に跡目を譲ると言われて、面倒くせぇっと断るような奴だからな。・・ま、だからこそ恐ろしい化けもンなんだろうけどよ。―――こいつに欲があるとすりゃ、そりゃ、目下持て余し気味の性欲だけだぜ」

血に餓えた狼のように視線をギラつかせて、男は尚も笑った。


「―――だが、こいつを見りゃ、女どもはこぞって足を開きやがる。・・・結局、こいつが執着するようなもんは、この世にゃねぇってことだ。地位も名誉、女も全て、な・・・・・・」


突然、すっと恭平が立ち上がる。彼はしてやったりという顔でニヤリと笑った。


「―――だが、見つけちまった。・・・そうだろう?轟・・・・あの夜、おまえは見つけたわけだ。おまえの“欲”――――ただ1つの執着を、さ・・・」

一瞬にして全員の視線が轟に集まる。だが、冷酷無慈悲な男は顔色ひとつ変えずにそこにいた。


しかし、だからこそ、彼らはすぐに気がついた。


――――男は肯定しなかった。



しかし、否定もしていないのである。



一様に皆思い出す。そう、あの夜、あの場所で、見たことを・・・。


そして、祐一も竜也も、庄治も、ああと納得をした。



そう、彼らは見ていたじゃないか。


けれど、忘れていた。



――――立ちの悪い冗談だと。


日々の不変に飽きて、またおもしろいゲームを始めたのだと。



・・・・そう思ったから。


だから、忘れていた。




――――初めて、この冷酷な男が自ら人を誘ったその姿を。




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