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< 帰宅 >

淀んだ空気が漂う地下駐車場。


沈黙を引き裂いて、そこへ疾風のように入り込んできた一台のバイク。


黒光りするその大きなバイクは、怪物のような唸り声を上げながら、高級車の列を駆け抜ける。一陣の疾風のように走り抜けたバイクは、広い駐車場の奥で速度を落とした。

マフラーから吹き出る息が、辺りにオイルの匂いを吐き捨てた。

黒い怪物から降り立ったバイクスーツの男は、黒いメットを脱ぎ捨てると、苦もなく大きな愛車をつれて、閉ざされた扉、その奥を目指す。




―――エレベーターの前には3人の男が立っていた。

左右に立つ2人の大男は、直通エレベーターを守るガードマンであり、残りの1人は良く見知った彼の世話役で、名を朗氏と言った。

頭を下げる朗氏を冷淡に無視した男は、颯爽とエレベーターに乗りこんだ。その不遜な態度に腹を立てるでもなく、影のように朗氏が付き添う。

彼は主が余計な干渉を何よりも嫌い、煩わされることに不快に感じる性格であることをよく知っていたのである。



――――“無き者としてお傍に仕えること”、それが彼の仕事の大前提であった。


不気味な音と共に機械の箱が動き出すと、不快な浮遊感が襲う。高速エレベーターが目的の階に付くのには、数分とかからない。



「―――皆様、お揃いでございます」

朗氏はひそやかな声で、現状を報告した。

舌打ちした男が、尻ポケットから無造作にタバコを取り出し、口に銜えた。ボッという音と共に、銀色に光るジッポから炎が上がる。炎はじりりと先を焼き、途端に狭い箱の中には、独特のタバコの匂いが広がった。

静けさの中、カチンッとジッポが閉められた時。




「――――ポーン」

エレベーターが間抜けな音で到着を告るのだった。



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あきゅろす。
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