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< He is >



西へ落ちて行く三日月の代わりに、今宵夜空を占領するには星の瞬きである。昼の喧騒はどこへやら、夜の静寂に包まれた校庭に、小さく漏れた隆也のため息が吸い込まれていった。



――――不可解である。

長いバーを肩に乗せて歩きながら、難問の答を彼は必死に考えていた。今日も今日とて、部室に帰れば、タバコ吹かすあの男がいるに違いないのである。

―――あの奇妙な出来事から一週間。


すでに強引な男の存在は隆也の日々の中に溶け込みつつある。にもかかわらず、二言三言しか言葉を交わさないので、実際、あの男が隆也に用があるのかどうかすら、わからずじまいなのである。急に迎えを強制しなくなった幼馴染も何も言わず、今日も今日とて隆也は首を傾げて、わからない問題に蓋をするのである。


―――案の定と言うべきか、やはり男はそこにいた。

モデルのように長い足を組み、肩ほどまである脱色された髪を邪魔そうに掻きあげて、タバコを曇らす。もう見慣れてしまった仕草であるのだが、今だに、彼という存在を意識してしまう隆也である。



「・・・・・・・・終わったのか?」

『待つ』という行為が嫌いなのだろう、タバコの吸殻を見ずとも男の苛立ちが伝わってくる。隆也は小さく会釈した後、すぐに着替えを始めた。

小麦色の腕に白いシャツの袖が通る。日に痛んで紅くなった髪からは、汗がポツリと垂れた。

沈黙した密室の部室には衣擦れの音だけが響いて、蒸し暑い空気が熱気の収まらぬ体には苦痛だった。




「――――西田が好きか?」

突然の質問は、尋ねたくせに答えには興味の無さそうな声をしていた。着替えの動きを止め律儀に「はい」と答えると、氷川は「そうか」と言ったきり何も言わない。


・・・・だから隆也も、何も言わない。

そしてきっと、二人の分かれ道となる交差点まで、言葉という難解なものをお互い発すことはないのだろう。

―――運動着をバックに詰め込んで振り返ると、氷川もゆっくりとベンチから立ち上がった。


隆也は男を見とめながら、『わからない』と心の中で呟いた。







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あきゅろす。
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