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< 夢物語 >
「あっ、あっ・・・・・ひっ―――、あ、んんっ」
――――ベッドが激しく軋む。
ギギギギギッと嫌な音を立てて。
しかし、要の耳にそれが届くことはない。
――――ただ無心にシーツを掴み、男から与えられる快楽を享受するだけの彼には、今や何も見えず、何も聞こえなかったのである。
「―――ここがいんだろ?吸い付いてきやがる・・・」
――――激しい責めに要は鳴いた。
男は休むことすら許さなかった。
追い上げられては落とされて、また追い上げられる。
男は圧倒的な力で要を支配し、限界を知らぬ快楽で、要を溺れさせた。
「あっ、あぁぁぁっ、・・・・・くっん・・・んあ・・・・ひ・・」
――――――男は優しかった。
要の理性を根こそぎ奪うことで、無という夢を与えてくれた。
仕事、金、日々の事柄。
――――そのすべてから開放し、解き放ってくれたのである。
微かな意識で要は感じた。
――――――落ちてしまうっと・・・。
だが、この男に落ちてしまえば、そこは奈落の底。
「――――――最高だぜ」
「・・・あっ、あっ、あああっ・・・」
――――だが要はとうとう、最後の意識を手放した。
――――最高のセックスだった。
だが、同時に最低最悪だった。なぜなら、もうこれ以上のセックスを知ることは出来ないと容易に想像できるのからだ。そして、この男に会うことも二度とない。
―――――夢物語は、いつかは醒めるものだ。
朝の日差しを浴びながら、要はベッドに眠る男を見た。眠っている時ですら、すぐさま目を覚まして食い尽いてきそうな男だ。
―――――これは人を狂わせる。
男だろうが女だろうが、一目でもこの男の視界に映ることが出来るなら、喜んでその身をささげるだろう。誰しもに雄を意識させる男。いっそ、骨の髄までしゃぶりつくされ、食い殺されることに誇りすら与えるような男だ。
もともと要はゲイだが、これまでネコをしたことはないし、これからもしたいとは思はない。だが、昨晩は初めて雄の熱を受け入れた。そこに、後悔はない。
―――そう、これは雄として確固たる地位にいる要ですら狂わせてしまうようなとんでもない男なのだろう。
要は不意に昨晩の予測外のいくつもの彼の行動を思い出した。
予測もつかぬ不可解な相手。
――――あんなに愉快だったのも随分と久しい。
「一体、いくら積めばいいことやら・・・」
要は笑って財布から小切手を取り出した。自筆のサインを添えて放すと、空欄を残した小切手がゆっくりと弧を描いてベッドの上に降り注いだ。
―――若い百獣の王は、まだ目覚めない。
要はドアへ向かい、ふっとドアノブを掴んで立ち止まった。そして、小さく疼いた心に笑いを漏らす。ゆっくりとノブを回すと現実への扉は開き、ぱっくりと口を開いていた。
―――やがて、現実は要の背中を飲み込んで静かに夢の扉は閉ざされた。
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