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< The stranger >



―――――辻 隆也は驚いていた。

何に対してか。

・・・・・この状況に、対してである。

いつもの如く・・・・そう、淡々と過ぎる毎日に違いなく、校庭に誰もいなくなるまで練習を続けた隆也は、ダウンを終えて部室へ戻ってきた。流れからいけば、この後、汗を吸った運動着を制服に着替え、帰る準備をしなければならない。

――――しかし、扉を開けて、隆也はそこに見つけてしまったのである。

男の吸うタバコの匂いが室内に篭り、風の流れにのって隆也の鼻にまで届いていた。



何も言わない男に、隆也も軽く会釈を返しただけで着替えを始めた。こんなに緊張して着替えをするのは、生まれて初めてのことである。シャツを脱ぎながら、隆也は近づいてくる男をひどく意識した。



―――考えてみても思い当たる節はない。

もちろん背中からローカーに押し付けられても、それは変わらぬままである。ねっとり背中を這う舌に、小さく震えた。

―――仄かな香水の香りが漂う。


「・・・・・・・あ、の・・」


「―――なんだ?」


耳裏を舐められる音と共に、耳元で深い声がした。ゾクリと何かが走るのを不思議な気分で見送ると、隆也は口を開いた。


「・・・・・・俺に・・・・用事だったんですか?」

途端、低い笑い声が聞こえ、包囲されていた体が開放された。振り返ると男はもう笑ってもいなく、いつもの食えない表情で隆也に命じた。

「――――帰るぞ。さっさと制服着ろ」




香水の香りは―――もうしなかった。







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