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< 金の匂い >







「――――――騒がせたな」



要は食えない笑みでマスターにわびた。だが、返答は「いいえ」の一言だけで彼は仕事の手も休めはしない。




―――社交辞令に興味はないか。



要は小さく笑って二杯目を注文した。





―――――――その時だった。









「――――金の匂いがするな」





――――深い低音が背中を突き刺していた。




あの男だとすぐに気づく。振り返ればやはり“彼”だった。


――――ソファにどっしりと腰掛けてゆうるりと紫煙を曇らせている。猛禽類の鋭い視線が今や要を貫かんばかりに刺していた。






「――――どうやら邪魔したようだ。すまなかった」



要の社交辞令を男は鼻先で笑い飛ばした。




――――男が立ち上がる。




ゆっくり。



堂々と。



狙い定めたように。




――――どうやら彼の仲間たちは傍観者を決め込んだらしく、彼を止める様子はない。むしろおもしろそうに男と要を見やっていた。




――――こちらに近づいてくる男を要は作り笑顔で迎えた。食いつくすような男の雰囲気に飲まれないために無意識に全集中力を投下する。

だが、男の考えることは伺いしれない。そのことが余計に彼を高ぶらせた。



――――男が何を望み、何のための行動か。


要の頭脳はすばやく回転し始めた。



一瞬の間、互いが互いの腹を探り合い、視線と視線が火花を散らす。



――――とうとう、男が目の前に迫った時。



要は負けを認めて今度は誘導尋問に切り替えた。






「――――金の匂いは嫌いか?」




しかし、男にのってくる様子はない。もとより、言葉よりは行動派であることは予測内であった。



要の言葉を無視した男は、背をかがめて要を挟んでカウンターに手を突いた。






――――――ドンッ。




荒々しい音がとともに再び火花が散る。


黒い黒い瞳の中は、すべて闇に包まれてやはり何も伺えない。




――――すでに、互いの顔の距離は5cmもなかった。




だが、どちらも視線を外さない。


そして、突然、男は言ったのだ。




有無を言わさぬ声で。







「―――――――俺を買いな」






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