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< 主 >
――――数十分後、小さな店内は黒尽くめの男たちによって占領された。
やはりと要は鼻で笑う。どう見ても一般人に見えない男たちのせいで、今や店内は電気が走るようにビリビリと緊張していた。
――――殊更、背中越しの視線が痛い。
まだグラスは空いてすらいない。仕事が速いと褒めるべきか叱るべきか。
取り囲まれても振り向くことなく要は無感情な声で問うた。
「――――今日の仕事は終わりだと、そう言ったはずだが?」
護衛の長、佐伯が前に進み出で要の背中に頭を下げる。
「わかっております。しかし、あなた様の傍に控えることが私どもの仕事ですから・・・・私どもの仕事に終わりはございません」
―――――すっと目を細めた要はゆっくりと男を振り返った。冷たい美貌が佐伯の顔を凝視する。
全てを見透かす冷え切った瞳が無表情な男を通り越し、まるで世界の全てを悟っていると語っていた。
一瞬、無表情な男の顔に緊張が走るのを要は見逃さなかった。
「――――それはご苦労。お前たちの仕事熱心は、私も日頃から感謝するところだ。・・・・・丁度良い、感謝の印に今夜は皆に褒美を与えよう」
――――彼は頭の悪い男ではない。
すぐに要の気持ちを汲むだろう。だが、そんなことはどうでもよい。
――――所詮、部下に忠実な主など主ではない。
「――――全員、家に帰って休息を取るがいい」
困惑した男たちのうち、1人苦渋に満ちた表情の男に要は口の端を持ち上げた。
「――――佐伯。おまえの主は神田かそれとも私か。はっきりさせる良い機会だとは思わないか?」
――――ビリっと電気が走る。
佐伯の真意を知ろうとする視線に要は腹の中で苦笑するしかなかった。しかし、己が歪んだ性格の持ち主であるなど百も承知である。
でなければ、生きてはいけない世界に住んでいるのだ。
――――根負けしたのか、あるいは他に考えがあるのか、佐伯は等々負けを認めた。
「――――それでは最小限、携帯電話の電源は入れていただきたい。それから護衛を一人、200Mほど離して置きます。・・・・・・それぐらいはお許しください」
要は黙って頷くとカウンター上の携帯電話の電源を入れた。佐伯はそれを見届けると一礼して部下を伴ってドアへ向かう。
――――要は不意に彼を呼び止めた。
「―――佐伯。とんだ主を持ったな」
―――――佐伯は一礼した後、何も言わずに部下と共に出て行った。要はそれを見届けた後、カウンターに向き直った。
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