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< 波音が聞こえるよ 13 >
砂に埋もれた足先を見るように下に組み、体格の良い男が二人、手許の線香花火を揺らさぬように片手を火の傍に当てていた。
――――――パチッ、パチッ。
時折、繊細で小さな稲妻を走らせて丸い火種が潮風に踊る。
筒の大きな花火をやるためか、いつの間にか二人と距離を置いた周囲の大人たちが少し遠くのその場所で暗い影を作っていた。
静けさが辺りを包み、波が来ては返す音が先ほどまでの騒ぎがどこへやらぽっかりと空いた空間に響き渡った。
―――――サァァァァァァ。
潮風が来てはふんわりと揺れる小さな火玉が花火特有の橙色の灯りで二人の男の顔をちらりちらりと照らし出す。
その場に漂うのは熱い夏が齎すギラギラと眩しいほどの熱ではなく。
―――――ただ夏の夜の儚さが見せる淡い色だった。
「・・・・・ズルすんなよ?」
隣の男の爽やかなその面に視線をやることなく、妙な空気に背中を押され喬の口から言葉が零れる。
刹那に横顔に向けられた男の凝視に居心地悪さが生まれるが、それは禁止されているわけではない。
「――――――俺が勝ったら?」
今までになく真摯な低い声が小さな火花を海に散らす。
―――――パチッ、パチッ。
弾けるその稲妻を見つめてただ理性に従って淡々と喬は言葉を紡いだ。
「――――一日運転手。変わってやんよ」
小さく息を呑んだようなその沈黙に男の手許で火玉が揺れる。
気だるげに告げられた言葉の裏に隠れていたウーロン茶への礼が届いたのか、ぐらりぐらりと揺れたそれを目で追った喬の視線は再び自分の火玉に吸い寄せられた。
「―――――強情さか、優しさか。何にしろ調教師だな」
苦笑とともに落とされたその言葉に揺れたのは今度は喬の火玉の方だったからだ。
ゆらり。
ゆらり。
「・・・・そうゆうところが美置が離れない理由なんだな」
――――――揺れる火玉とともに呟かれた言葉は質問ではない。
砂に零された言葉を拾うように追って、勝負を始めてから初めて喬の視線が男の表情を捉えた。
来る波を一瞬一瞬見極める波乗りの瞳にあるのはただの鋭さではなかった。
まっすぐ向けられた熱の篭る瞳の中で。
「勝ったら―――――」
―――――橙色の火玉が揺れる。
ザァァァァァ。
一際大きく聞こえた波の音に笠野喬は知らず息を止めた。
「・・・・たーかーしー。俺のたかちゃ〜〜〜んっ!!!」
だが、その緊迫の一瞬は喬の背に突如圧し掛かる重さにあっさりと掻き消えたのだ。
呑気な酔っ払いの大きな声とともに喬の手元の線香花火から・・・。
――――――火玉が零れ落ちていった。
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