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< 波音が聞こえるよ 4 >















―――――民宿のチェックインも早々にシャワー代わり用のボトルを全て使い切った幸一のせいで砂を落とせずにいた喬と正秋は部屋に足を踏み入れると真っ先に浴室へと向かう。







サーフィンをしていればシャワールームで互い裸を見せ合うことも間々あるため、今更喬も拘ることはない。



ただイレギュラーだったのは寂しがり屋のお調子者が「俺も俺も」と無駄な主張をした上、無理やり洗面場に現れたことだ。



大の男が3人で、ファミリー向けとは言え浴槽が1つしかない浴室に入ればそれだけで窮屈に違いない。



結果、お湯の溜まった浴槽に膝をくっつけあうようにして二人、洗い場に一人のローテーションが組まれたのは最低限の妥協策だった。









――――――せまい、せまいと誰ともなく愚痴り、それでも笑顔を見せるその様子はまるで馬鹿げた合宿のようで男子校時代を思い出す。












ザ――――――――。










「あっち行け」「くっつくな」などと騒ぎ、浴槽に浸かっていた喬と幸一は、シャワーを出したまま髪を洗う正秋の背を見つめて不意に言葉を止めた。


背後ががら空きの当の男は全く気づかぬ様子でシャンプーを泡立ている。


当然、ニカッと笑った友人と目が合った喬は同じようにニヤッと悪戯な笑みをその顔に浮かべていた。















「―――――おい、まさか・・・・」








―――――目を閉じて頭からシャワーに突っ込むように髪を洗っていた男が二人の悪戯に気づいたのは歴代一位を誇る長さがかかった。















「秋ちゃん、やっと気づいた?」





「―――ってか、気づくのにどんだけ時間かけんだよ。早く気づかねぇとこっちが大変だっての」








代わる代わるシャンプーボトルを背後からプッシュしていた喬と幸一はそれぞれ、振り向いた男にニヤニヤと笑う。


何度髪を洗っても泡の取れないその悪戯は高校時代、彼らがよくやった遊びだ。


だが、ターゲットが気づくまでの最短と最長を競うそれをどうやら母校違いの男は経験したことがなかったようだ。











「――――オマエらっ・・・」









―――――怒るような低い声を発したわりに楽しそうに目を輝かせた男が、すぐにシャワーを水に切り替えるとシャワーヘッドを二人に向けた。



その後は「うわぁっ、冷めてぇ!!」「マジ止めろ」っと叫びながら、水浴びの大暴れに発展したのは言うまでもなく、三者三様の笑顔が咲いたその密やかな時間に、笠野喬は寛和正秋への距離が少し縮まったように思えた。













「―――――出ねぇの?」







真っ先に体を洗い終え、冷たいシャワーから逃れて浴室を飛び出して行った卑怯者の友人がいなくなれば、流石に先ほどとは打って変わった緊張が小さな密室に圧し掛かる。


何度かサーフィンに連れ立ったことはあっても、二人だけで会話する機会はこれまであまりないのだ。







最後の順番が回ってきた喬は洗い場で体を洗いながら、ようやく洗われた砂利が古めかしい淡いブルーのタイルと白い漆喰の隙間を流れて行くのを視線の先に捉えた。


口からは漏れた吐息は男に背中を向けたままの現状への安堵か、それともお湯が齎す本能的な安堵なのか。









―――――「まぁ、もう少し」っという男の言葉がいやに大きく浴室に響いて、喬は「へー」と気のない返事を返す。









「―――――湯船長い人?」





辛うじて言葉を繋いだものの、その後は「いや」っという返答が聞こえたきり、後はコックを捻ったシャワー音以外に浴室には音が消えていた。



砂利の沈殿した浴槽に浸かったままの男が、ただ湯に浸かるのが好きなのか、それとも湯から上がれない理由でもあるのか、喬は内心苦笑する。



出身母校と綺麗な友人を持つが故に深読みする自分の邪さに浴室から早々に退散しようと勢いの良いシャワーに誓っていた。











ザ―――――――。










女に不自由することのない男がそう簡単に男に懸想することなどあるはずはない。



母校の悪い風習故に己の歪んだ性感覚を十分に理解している喬は、全てを洗い流すようにシャワーヘッドに顔を向けると滝のようなそれに懺悔するように瞳を閉じた。






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あきゅろす。
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