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< 波音が聞こえるよ 1 >
ザァァァァァ。
―――――押し寄せる波が砂の上を這い、夏の太陽がギラギラと笠野喬(かさのたかし)の肌を焼いた。
しかし、口内をじゃりじゃりと動く砂と、喉と鼻を焼く塩気が、強い日差しより雄弁に喬の不快さを募らせる。
疲労感に打ちのめされた体はだるく、昼まで持ちそうにはない。
「――――今日の波よかったな」
まるで一流サーファーの如く呑気なその言葉は肩を並べて歩く友人、美置幸一(みおきこういち)のものだ。
思わず噴出した喬は、サーフボード片手に車へと向かう足を速めた。
太陽が上に昇り始めたために砂浜の砂は暖められ、柔らかいそれは足跡を深く刻む。
―――――サーフィンを愛する地元サーファーや常連のサーファーたちはいずれも海の紳士でマナーを非常に大切にする。
海の砂浜で余所者がゴミでも放置しようものなら、あっという間に砂浜から追い出される。
とりわけ、今日のように誰かの名前なしには使用できない浜辺で少しでもおかしなことをすれば、その誰かに迷惑がかかる上にショップ自体から敬遠されるようになるのだ。
いずれ海から追い出されることが目に見えて明らかなため、一仕事を終えた体にニコチンが欲しい喬はそのまま車へと直行していた。
ザァァァァァァ。
来る波と引く波のその音が絶え間なく海岸沿いに響き渡る。
――――――潮風の吹かれるその島に笠野喬の大学三年のその夏はあった。
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