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恋花-その時-










―――――ガンッ!!!!











男の手から投げ出された携帯電話は事の他、大きな音を立ててリブングテーブル上に納まる。


その乱暴さに思わず今井夕日(いまいゆうひ)はびくっと肩を竦めた。








「――――イラつくんじゃねぇよ。下のもんがビビんだろうが」







隣に座る恋人、宮部正史(みやべせいし)がそんな夕日の頭を撫でで慰めるが、男は何も答えずにただだるそうにソファに腰を下ろしていた。


戦々恐々とした風紀の面々が男を見つめる様子に、夕日は感覚的に男の立ち位置を悟る。








――――――五条蒼士(ごじょうあおし)という恋人の親友はあまりしゃべらないが悪い人ではないとそう夕日は思っていた。






茶化す程度には口を開くし、つまらなくなれば口を閉ざして眠そうに欠伸をする。


そんな自由な男で、少しそっけないクールな大人という印象だったのだ。










「―――――あれだろうが・・・長島の件だろ?オマエが不機嫌なその理由はよ」








だから、その恋人の言葉に容赦なく鋭い視線を向けてくる男にただ漠然と恐怖が沸き起こる。


それもどうやら自分の親友に関係しているらしい。









「・・・・ったく」







その呟きとともに携帯電話を耳に当てた宮部に直観的に夕日は自分の親友が呼び出されるのだと気づいた。


ほどなくして応答した電話に宮部が何やら話しているその間、ちらりと視線を男に向ければ、男の視線は揺らがずに宮部を射るように見つめていた。


ただ単純に怖いと思った夕日は無意識に宮部のシャツを掴む。






「長島さんっ、来ないでくださいっ!!来ちゃダメですっ!!」


「来るな!長島っ!!」






――――突然、電話口に聞こえるように騒ぎ出した風紀にはっとする。



男を知る風紀の面々がそう告げるということは男の力を止める存在がここにいないということだ。









―――――ガンッ!!!






乱暴にテーブルを蹴り、無表情に席を立ちあがった男に夕日は宮部のシャツをぐっと引いた。


恋人の腕は安心させるように夕日の肩を抱き込んでくれたが、その口から出た言葉は一喝だった。








「オマエら黙ってろっ!!・・・ったく、いいから、オマエは今すぐ来い」







やがて押し黙った風紀の面々を一瞥し、男が部屋の出入り口に向かって歩き出す。


夕日はその背を不安な気持ちで見送った。









「―――――これで満足か?あ?」





通話を終えた宮部の問いかけに、出入り口付近の壁に凭れた男はすぐには応えなかった。











―――――ダァァァァァァンッ。










ただその壁を蹴りあげて、じっと獣のような視線で低い声をあげるのだ。













「―――――満足ね。そう見えんの?」




まるで今にも噛みつかんばかりの男の豹変に夕日は息を飲むが、隣からは小さなため息が聞こえてきていた。









「・・・・俺にまであたんじゃねぇよ」








―――――まるで狩の前の獣のように、そのままじっと無言を通す男に夕日は親友の身をひたすら案じる。



自分の親友が文化部総裁と生徒会室に籠もってランチを取っていたという噂の真相も知りたいが、理由のわからない不機嫌な男の怒りの矛先が親友に向かわなければいいとそう思った。



End.

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あきゅろす。
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