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恋花-後日談-
「―――――楓、あの・・・大丈夫だった?」
風紀委員長の部屋から解放された翌日、ようやく歩けるようになった長島楓は心配そうな親友の声に思わず苦笑を浮かべた。
何を持って大丈夫と言えばいいのか、もはやわからなかったのだ。
「―――――すいません、失礼します」
―――――目の前に立つ風紀委員長もその横の親友にすら視線を合わせられない。
顔に血が集中した自覚のある楓は、ぎこちなく別れの挨拶をすると風紀委員長に部屋の鍵を渡す男の影に隠れるようにして廊下を後にしていた。
―――――今は誰の顔も冷静に見られなかった。
―――――――情事中の男は長い無言だったかと思えば、突然しゃべりだしたりと、もはや楓には予測不能だった。
人の部屋で行為に及ぶことすら、楓にとっては考え難いことであったが、男に躊躇は見られず、他人が隣の部屋にいることすら関係ないようで声すら抑える様子はない。
むしろ、隣にいる人間たちに声が聞こえるのではないかと気が気でない楓が声を抑えれば、苛立たしげに胸の飾りをきつく摘む。
「――――何、声出さねぇようにしてんの?」
―――――体中を撫で回された挙げ句、あっさり服を脱がされた楓は背中から座位で抱きしめられた。
大切なその男の右手は楓の急所を握り、ゆるゆると愛撫している。
「はぁ・・・・、っ、ぁ」
卑猥すぎるその視界に目を逸らして男の肩に頭を預けるように楓は天井にぼんやりと視線を向ける。
耳に聞こえる男の息とその低音にひどく羞恥に駆られるが、実際は容赦なく与えられる他人からの快楽に目がくらみそうだったのだ。
――――――繊細そうなその指が、強弱をつけて竿を擦り、時折先端部分を強く回すように押す。
「ぃっ、ぁぁっ!・・・」
途端、今以上に仰け反るしかないのだが、そこが『誰』のベッドかを考えるとやはり解放する勇気は出ない。
腰の引けるような快楽に懇願するように首を横に向ければ、男の鋭い視線と目があった。
「・・・ここ、委員長のっ、――――――っ!」
だが、ぐっと急所を掴まれ、その言葉の続きは楓の口から発することはできなかった。
苦しさに男の腕を掴むが、男はその手を離そうとはしない。
――――――ただ低く籠もったその声が楓の耳に届くのだ。
「―――――俺が体ごと欲しいじゃねぇの?アイツのシーツの方が大事なの?シーツに劣るの、俺?」
――――――獣の飢えを宿した瞳がじっと楓を見つめていた。
しかし、それも長くは続かない。
「あぁくっ、ぁぁ、イヤですっ、離してく、ださい、イヤっ・・だ・・」
愛撫というよりは「イかせる」ために手段を選ばぬとばかりに強く擦られて楓は逃げられない快楽に苦しむ。
両手で必死に男の手をどかそうとしても男は行為を続けるだけだった。
「――――――ちっ」
やがて楓の行動に苛立ったのか、一つ舌打ちすると仰け反った楓の後頭部を抑えて、男の舌が口内の奥の奥まで入りこむ。
そのまま、後ろに倒れこむと伸しかかるように男が上から覆いかぶさっていた。
「ん、んぁ、―――っ!!」
―――――腰が引けて逃げようとする体を上からしっかり押さえつけられ、全身から力の抜ける快楽に成すす術もなく仰け反った。
濡れた音と鼻にかかる自分の声が聞こえる中、やがて限界を迎えた足が指先まで突っ張り、体が痙攣するように震える。
苦しさと気持ちよさから涙すら出そうで閉じそうな瞼を必死で開ければ、口をようやく解放した男がじっと楓を見つめていた。
「・・・・はぁ、ん」
―――――途端、荒い息を吐いた楓を襲ったのは淫らな解放感と酷い羞恥だった。
男の手と腹を汚し、風紀委員長のシーツも結局汚してしまった。
緩慢に男の視線から逃げるが、男の手が乱暴に楓の顔の横に突かれて、思わず上げた視線の先に。
―――――まだ飢えの治まらぬその瞳があった。
「――――オマエ、何なの。他の男はナシって言ったよね?その耳聞こえてねぇの?言葉理解してる?」
苛立たしいと言いたげなその言葉に口を開こうとした楓の方足は強引に男の肩に担がれて、男の手が尻に伸びる。
「イヤです、そこ、汚いっ・・っ!!」
入口から入り込む指に必死に言い募れば、イッたばかりの急所を再びあつかれて力の抜けた瞬間、指が入り込んだ。
もはや泣きそうな羞恥に居た堪れない楓は異物感に打ちのめされて、男をじっと懇願するように見たが、男はただ舌打ちするだけでさらに奥に指を進める。
「―――――っ!!」
少しの痛みと困惑に男の腕を掴むが、男は楓の首をきつく噛むと指をゆっくりと動かした。
痛みを恐れて息を詰めた楓はゆっくりと呼吸を繰り返し、生理的な涙を必死に堪える。
「・・・つーか、もう散々待ったから。オマエが他の男とイチャついてる間に待ったの、俺。なのにまだ待てとかってどんだけ女王様なわけ?イヤって何?・・・んなの、知らねぇよ」
淡々と話す男の言葉に誤解だと口にしようとした楓は、一瞬、訪れたよくわからない快楽に仰け反った。
「――――ぁ、・・はっぁ!!」
途端、「へー」っと目を細めた男が執拗にその場所をいじるため、楓は逃げるように体を動かすが、男の腕がそれを引きずり戻す。
「・・・いっ、ぁ・・ぁあ!・・」
――――――その後、無言の男の視線に長いこと晒され、快楽に苦しむ楓は執拗に鳴かされ続けることになったのだ。
「――――――何、怒ってんの?」
廊下を急ぎ足で歩いていた楓はぐっと掴まれた腕に振り返る。
だが、一瞬にして視線を逸らす楓に男は不機嫌そうに舌打ちするとその米神を抑えた。
―――――長島楓は怒っていたわけではない。
ただ男や風紀の面々を見るとこの二日、今までになく恥ずかしい日々が走馬灯のように浮かぶのだ。
特に男を見ると淫らな映像と音がリアルに思い出され、乱れた自分を思い出さずにはいられなかった。
―――――結局、羞恥心が勝っていたのは始めだけで、男の指を受け入れてから楓の意識は簡単におかしくなった。
だが、最悪なのは長島楓の記憶力がずば抜けて良いことだ。
おかげで意識はもうろうとした状態であっても、しっかりその記憶は残っている。
『あぁぁっ!ぁ、・・・っ!やっ!』
―――――長く男の無言の視線に晒された後、制止の言葉を無視して男が体内に入って来た。
そこからはもはや男のなすがままで、楓に許されたのはただひたすら声を我慢することだけだった。
だが、それすら途中から弾け飛んだ。
無言で攻める男を縋るよう見つめても勢いは増すばかりで、男は楓の体を解放しようとはしなかった。
舌を噛まぬように気をつけていたはずが、いつの間にか顎に力すら入らず、手は触れるだけのものに成り果てた。
『ぁっ、あっ、んっ・・・』
――――――散々喘いだ自分が恥ずかしすぎて、誰にも顔向け出来はしない。
ましてシーツを洗ったとはいえ風紀委員長のベッドで行為に及んでしまった背徳感。
「―――――しばらく顔見ないで貰えますか?」
リノリウムの廊下の床をじっと見つめた長島楓はあまりの恥ずかしさにそう呟いたが、まだ恋人の自覚が足りないその言葉がまた新たな誤解を生んだことに気づくのは男が窓を殴りつけ、怒りを露わにした後のことだった。
「恥ずかしいので・・・」
――――――そして、呟くように付け足されたその言葉によって無言でその体が学校から連れ拐われたのはまたその後の話なのである。
End.
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