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バッドボーイの現実2
―――――大型バイクに跨って低い地鳴りとともにどこからともなく現れるそいつらは『学校』ってちんけな括りじゃ動いちゃいない。
本名を尋ねもしなきゃ言いもしないそいつらはただ数文字の愛称だけを携帯の画面に表示させ、互いに囁かな目の動きと手のそぶりだけで意思の疎通を図っては夜毎に闇の中で集まって『お遊び』に興じる『夜集まり人』ってわけさ。
知らぬ間に出来たおっかけっていう名の女たちも金魚のフンのように媚びへつらう男たちも相手にする気はさらさらなくて、唯一そいつらを目に映すその時は色気垂れ流す俺らのヘッドととも言うべきその男がニヤリと笑ったその目に格好の獲物を見つけたその時だけなんだ。
ヘッド。
――――ま、そんなありきたりな名称なんぞありはしないけどな。
結局、俺らは徒党を組んで喧嘩が飯の三度より大好きですって血気盛んなチームでもなけりゃ、お気楽お手軽合コン三昧の女の尻追いかけ回すサークルってわけでもねぇ。
だから、通り名すらねぇ俺たちをただ『あいつら』って呼ぶのがここらの通ってわけなのさ。
―――もっとも、俺たち以外の者に言わせりゃ、そこらのチームより危ない族ってのが俺たちの『売り』らしい。
「甲斐さん、Koがヘイゼンにヤられたらしい」
―――――それこそ売られた喧嘩を見過ごすほどいい子ちゃんでもねぇってのがその理由なのかもしれねぇけどな。
それなりにストレス発散はさせていただきますってのが、何、思春期男児の健康的な体の使い方って奴だろう?
「――――で、アイツは?」
黒皮着ても、尚、カッコ良さよりは色気を垂れ流すってイメージが強いその男に極意があるならまず真っ先に聞いてみたいもんさ。
気だるげにバイクのハンドルに凭れかかったその背が豹が身を起こすように立ち上がれば、ぞっとする垂れ流しの色気の裏には寒気がするほどの恐怖が待っている。
火花散ったら炎が燃え上がるのはあっという間でそれこそ目に留まらず綺麗に丸ごと焼け野原にするのが、軽い炎を操るそいつの特徴だからな。
だから、焼け野原を何度も見てる俺たちはただにやにやと笑うだけなのさ。
―――――ああ、馬鹿な奴らがまた下手な相手に突っ込んでったもんだとな。
「病院に搬送されたって連絡だ。単車は見つかってねぇから海にでも捨てられたんじゃねぇかってよ」
「――――シ〜ズ、久々のパーティナイトだ」
ほら、大型バイクに跨って笑うそのセクシーなあくどい笑みに勝てる奴はいやしない。
だから、ニヤリと笑みを飾って俺は今夜もアクセル吹かす。
「―――――フレンチの行儀良さっすか?それともイタリアンな大味で?・・日本食並の手間暇って気分じゃねぇっすね、今夜は」
楽しい楽しい悪魔のガキが群がるパーティナイト。
そのオーナーシェフを担うのはいつだってあくどい笑みで悪さを企むセクシーなその男だ。
後はシェフの指示通りに獲物を料理すれば、あっという間に焼け野原の完成だ。
焼け爛れた野原がどこにいくつできようが、俺たちの知ったこっちゃない。
地獄へのドライブは最高なお遊びだから、トリガーを引いた馬鹿な奴らの顛末なんて興味すらないってわけで、ただその背とともにある楽しさだけが俺たちを揺り動かすのさ。
「――――イタリアンだ。アルデンテで仕留めろよ、シズ」
「誰に言ってんすか、甲斐さん」
ただし、この悪魔のガキどもの集まりでうまく料理長とおいしい食事にありつきたいなら一つだけ暗黙の了解があるってことを忘れるな。
「―――――甲斐」
―――――本物の悪魔すら裸足で逃げ出すその怪物に気をつけろってことさ。
そいつに対抗できるのは唯一一人って事実を忘れればあっさり力任せの拳に泣くのはこっちの方だ。
当然のように横に居座るそいつに間違っても対抗する気は起きはしねぇが、殊更恐ろしいその存在はたった一人しかその目に入れやしねぇから、結局俺たちに向けるその眼差しは『オマエらは全員カスだ』とそう言わんばかりってわけだ。
もっとも、お熱いほどのその視線に無視するでもなくビビるでもなく平然と向き直るその男もやはり怪物とは類友ってことなのか。
いつかの罰ゲームで『キスコール』に意外に嫌がって見せたという意味では怪物もその男の中では特別視されてるってことなのか。
いずれにしろ、嫌がらせのべロチューなんて今更な男が初めて見せた渋面に思わず興味深々に一線踏み越えちまったのが俺たちの運の尽きだったんだろうぜ。
『・・・んっ、・・はっ、』
――――――普段ゲームなんて興味も関心もないって怪物が初めてのってみせた罰ゲーム。
それだけでも十分今日のお楽しみだったってのに、どこかの馬鹿の好奇心がまさかの『キスコール』まで悪乗りして恐ろしい現実に変わった途端、その場にいた奴らは全員、悪夢と御対面だ。
むしろ、悪夢を見せることはあっても見ることはねぇ悪魔のガキどもがそりゃもう口をあっけぱなしで目ん玉引ん剥いたってわけさ。
『・・・離せっ、・・ンッ』
冗談にもならねぇ濡れた音響かせて、舌まで絡ませる男同士のベロチューに目が離せなかったの生憎は俺だけじゃねぇ。
そう気づいたのは・・・。
ごくり。
―――――どこからともなく漏れた喉の音にはっとしたからに他ならねぇ。
馬鹿みたいに垂れ流しの色気に生唾の飲んだのは始めだけで、その後に訪れた決まりの悪さと言ったら、まだ大人しく家帰って一度も開いたこともねぇ宿題なんぞ目で追ってみる方がマシだと思えたもんさ。
いっそ怪物の深い執着に薄ら寒い恐怖すら感じたのはその冷たい目がきっちりと物騒な思いって奴を如実に伝えてたからさ。
――――――これは俺のものだ。
どうゆう意味の『俺のもの』なのか堀下げたくねぇと思ったのはその場にいる奴ら全員の思いに違いねぇ。
だからこそ、いつもの冗談とばかりにポーズを取ってみせた俺たちの目はいっそ哀れなほど宙を泳いでたってわけだ。
後にも先にもその話題に触れた奴も触れたい奴もいやしねぇ。
今までだってどことなく匂ってたその言葉を否応なく鼻先に突きつけられたその日、はっとするほど俺たちは正確に何かを理解したんだからな。
――――ああ、こりゃダメだってな。
そりゃもう可哀そうなくらいにしっかりと理解したね。
まぁ、お頭でというよりもっと重い、腹の底にずしんとくるような現実味を帯びた恐怖に近いそれだったが、それでも、その日から俺たちの中で何かが変わったことだけは確かなのさ。
本能的な自己防衛から意識的なリスク回避へってな。
『甲斐さん』とその名を呼ぶ時。
『甲斐』と何の気なしにその体に触れる時。
――――――視界には入っていないその怪物の空気を全員が一瞬探るのはある意味でここに集まる奴らの暗黙の了解ってわけだ。
なんたって死活問題ってわけだからな。
誰だってやっと見つけた居場所って奴を手放したくはないだろう?
だから、悪魔のガキと謳われるこの俺たちが低いその声一つ、地獄の底から這い上がった瞬間に息を飲んで大人しい僕ちゃんに早変わりなのさ。
怪物の深い深い、それこそ目を覆いたくなるその物々しい執着を間違っても踏みつけにすれば最後、拳一つで治まるどころか、タチが悪いと謳われる男すらあっさりどこぞに連れ去って二度と外の世界に出れねぇように閉じ込めちまうんじゃねぇかって、ひっそり忍びよる現実味にこの俺たちでさえビビらされちまってるってわけだ。
「―――――陣、オマエも行くか?」
だから、笑うその男の背で無言で視線のやりとりする俺たちはきっちり今夜も理解してるんだ。
―――――所詮、食物連鎖のピラミッドってのは覆せやしない世の常なんだって悲しい現実をな。
End.
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