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< Where do you go? >
―――――駅に向かってさくさく歩く背の高いその後ろ姿をじっと眺めてみても、映画が終わった途端、「帰るぞ」と一言だけ呟いたその人のプライドが守られたかどうかはわからない。
前を行く速足さんのスピードが今日の出会い頭ほどの速さではないことにほっと心を撫で下ろす辻隆也にでさえ、『デート中』に眠ってしまうことの失礼さは想像に難くはなかった。
「・・・・すいません」
―――パタッパタッという座席の閉じるその音に瞳を開けた辻隆也は暗闇のすっかり掃けたそのシアタールームで失礼にも『デート中』に眠ってしまったことに気がついた。
それも『デート』に誘ってくれたその人の肩で眠ってしまうというとんだ大失態である。
もはや誰もいなくなった客席で即座に本日二度目の『すいません』をくり出す辻隆也の下げられたその頭にはただ「帰るぞ」というその鶴の一声が降っていた。
―――――昨夜、ベットに横になった辻隆也を襲ったのは『デート』という初めての響きと治まらない胸の動悸だった。
頭の中を勝手に流れ出した『デート』なるもののイメージは気づけば瞳を閉じたままの隆也から睡眠時間を奪っていったのである。
カーテンから差し込む朝日にぱっちり目をあけた隆也には、全くと言っていいほど睡魔という安らぎは訪れなかった。
どうしたものかと思わず首を傾げてしまった彼なのだが、目はぱっちり頭もすっきりのその状態に珍しく時計と鏡を何度も見てしまう以外は至って『普通』だとそう思った隆也なのである。
しかし、高ぶる精神とは別に一睡もしていない体はやっぱり正直『普通』とはいかなかったようだ。
いつも以上にぼーっとした頭で街を行けば大好きなその足をあっさり見失ってしまい、気づけばうっかり見知らぬ人と話しこんだあげくに、やっと大好きなその人と再会できたかと思えば、今度は映画館の座席で眠ってしまうという顛末だった。
それなら、一晩かけた『デート』のイメージトレーニングは一体何の役に立ったというのか。
―――――思わず小さな溜息を吐きたくなった辻隆也は繋がれたその手をじっと眺める。
不器用だけれど優しい大人のその人は頭ごなしに怒ってデートの相手を置き去りにするようなことはしなかったけれど、まだ夜には早いその時間に「帰る」というからには少なくともその気分はよくはないのだろう。
いつものように黙って手を出せっという俺様なその手に思わず「すいません」ともう一度謝った隆也だったが、隣に立つその人がやっぱり自分より大人なのだと知った今日という日は、今まで通りその速足の速さが本当にご機嫌のバロメータなのか思わず不安になってしまう隆也なのである。
しかし、今目の前にある背中の機嫌以上に辻隆也にはもっと気になることが1つあるのだ。
だが、その気がかりを解決するためにはなけなしの勇気が必要だ。
「・・・・・あの・・・」
――――小さな呟きとともに足を止めた隆也に前を行くその大きな背中がゆっくりと立ち止まる。
繋がれていないその手でぎゅっと拳を握った隆也は振り向いたその人の瞳に思わず息を詰めてしまった。
だけど、『デート』が決まってからこっち家に寄りつかなくなってしまった俺様居候にどうしても一言言ってやりたいことが家主にあるのだ。
「――――――何だ」
問いかけるその低い声に胸の動悸は最高潮に達する。
――――――今日は寄って行ってください。
とっても勇気のいるその一言が喉まで出かかっているのに中々言い出せないその部屋の家主はいつだって『俺様ハート泥棒』な居候に恋をしている。
だから、駅に向かうその道でぱたりと足を止めた辻隆也が一番気になるのは大好きなその背中のご機嫌よりも『帰るぞ』というその言葉の行き先の方なのである。
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