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< 氷帝 >
プップ――――――――。
事故車両のために渋滞となった首都高に雑多の夜を切り裂くようにクラクションが鳴り響く。
赤いテールランプの群れに思わず神田は目を細めるとフロントミラー越しに主へと小さく頭を下げた。
「――――――すみません。渋滞に嵌ってしまったようです」
彼の主は静かに頷いたきり、窓の外に見える美しい夜景に視線を逸らす。
長いその睫毛は一瞬伏せられ、そして静かな空間に小さな笑い声が漏れるのだ。
「――――――ふっ」
視界に何かを見つけたのか、珍しく冷笑でも嘲笑でもない、ただ綺麗な微笑を浮かべた主に神田は何か見てはいけないもの感じて静かにミラーから視線を外した。
「・・・・・・・・」
そして、視線の先にイタリア製の大きなバイクが一台車の脇に止まっているのを見つけるのだ。
そのバイクと同じ機種を乗りこなす男に神田は心当たりがあった。
―――――主の元をたびたび訪れる横柄な男と同じ高級バイクなのだ。
しかし、良く知るそれは目の前にある赤ではなく珍しい黒のうえ、見なれた黒皮のライダースーツも騎乗には見当たらない。
「――――今頃何をしていることやら」
狭い車の密室の中、その小さな呟きを拾った神田は、最近姿を見せていない主人の犬を思い出す。
ブォォォォォォォン。ブォォォ――――ォォォォン。
―――――やがて脇を走る抜ける爆音に一瞬目を細めると主が漏らした言葉を聞き流して、神田はただ静かに動き出した車の群れにアクセルを踏み込んだ。
主の好む銀色の高級車が優雅に進み出すと、ミラー越しに見える彼の主の表情はいつもの冷静な顔に戻っていた。
End.
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