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< 棒飴とスケートボード >
―――――キャップ帽を被った猫背な細身のその背中とふらふらと気楽そうな長身のその背中の1セットはこの学園では簡単に見つけることができる。
特にお腹を空かせた学生でごった返す昼食時の食堂では、いつも日当たり良好の隅っこの角席を暗黙の指定席とするそのコンビが、のんびりくつろぐ猫のようにゴロゴロと日向ぼっこをしているのがよく見られる光景だった。
そして、この学園の生徒達が昼食のトレイを手にまるで儀式のようにそこにふっと目を取られてしまうのもこれまたいつものことなのだ。
問題児として名高いそのB系少年がつい一歩引いてしまうその鋭い半眼を閉じてイヤホンを耳にしたまま、金髪蒼顔のふんわり柔らかなこれまた変わり者として名高いその人の肩でまどろむその情景は、なぜだが見る者をとても穏やかな気分にさせる不思議な魅力を持っている。
まるでやんちゃな傷だらけの野良ネコが真っ白な品の良い猫の傍で一緒にゴロゴロ眠っているようなほっこり温かいそんな気分を運んでくるのだ。
だから、これは間違っても大きな音立ててはいけないなんて思てしまって、この学園の生徒達はなぜか無意識にその場所を避けてしまう自分たちに気づいて首を傾げるのである。
「・・・・見つけたぞ、遠藤宏也」
この学園の人気者に分類される風紀委員達が息をはぁはぁ乱して腿に手を吐き息を立て直すその様子もこの学園では珍しくもない光景だった。
むしろファンたちはその爽やかな疾走ぶりに手を握ってその背を応援しているのだが、毎日学園内を走らなければいけない風紀委員達はたまったものではないだろう。
最近めっきり陸上部員も顔負けのフォームになりつつある風紀委員達は、マラソン大会では上位を占めるその脚力を知らないうちに手にしていたのだ。
目つきの悪い逃走犯に感謝すべきかどうか、大いに悩めるところである。
「し―――――」
だけど、息を乱した風紀委員たちもやっと見つけた逃走犯をおいそれと逮捕することは叶わない。
だから、息を吐く風紀委員たちに向けられるのは綺麗なはんなり笑顔で微笑む西洋人形の起さないでという人差し指だけなのだ。
――――スピード違反は現行犯逮捕が基本。
つまり、スケートボードに乗っていないB系少年を捕まえてはいけない。
それがこの学園に突如スケボーを乗り回すスピード違反者が現れた時からの不思議な暗黙の了解なのである。
だから、大きくため息を吐いた風紀委員たちはせっかく見つけた逃走犯の健やかな眠りを妨げぬように棒飴をコロコロ舐めるその西洋人形に手を振られ帰路につくしかないのだ。
――――――この学園にはやんちゃな傷だらけの野良ネコと綺麗な真っ白い猫が住んでいる。
その猫たちは意外にもこの学園の生徒達に親しまれるその存在なのかもしれない。
「・・・・行ったよ、ヒロヤ」
「ん」
ほんわか笑うその西洋人形の肩ではスケートボードをその手に大事そうに抱えた逃走犯が薄ら目を開けると再びその瞳を閉じていた。
End.
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