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< Stray Sheep 7 >






―――――どうやらいらぬことまで言ってしまったらしい。




キースは自分がおしゃべりだとは知っていたが、あまりに楽しかったのでついつい調子に乗ってしまったのだ。ここの海賊たちは皆個性的で面白い。何より自分とは異なった環境で育った人間にキースは興味があった。



しかし、アプローチは失敗だったようだと、キースは目の前に広がる中海を見つめる。

武器は取り上げられなかったし、船の中もたいてい自由に行き来できる。ヒューイやジークに関しても鎖に繋がられたり、檻に入れられることもなかった。しかし・・・・。







「―――これって、いわゆる軟禁?」



ニヤリと笑ったキースに、監視役のバンが苦笑していた。



―――――気づいたとき、船はコンドレの街をすでに離れてしまっていた。今は見渡す限り海だ。まさか泳いで帰るわけにもいかなし、呆れてボートを盗む気にもなれない。


キースはま、いいやと呟いて、甲板に転がった。空は澄んだ青色だ。雲は気持ち良さそうに流れてく。


キースの横では、ヒューイとジークがバンの動きを監視している。まだ2日目では、キース以外の人間になれないのだ。






「・・・・なぁ、こいつらって、どっちがどっちなんだ?」




珍しいバンの問いかけにキースは、上半身を起こした。そして、コホンと咳払いしてから、二匹の頭を撫でるのだ。





「――――黄色の目が弟のヒューイ君、緑色の目が兄のジーク君。どちらも雄で、ヒューイ君は甘えんぼさん。ジーク君は不器用かな〜?ま、どちらも美男でしょ?」




へぇと興味深げなバンに、キースは二匹をけしかけた。大きな二匹はバンに突進して、彼を押し倒すと勝ち誇ったように胸を張る。困ったようなバンの顔に、キースは笑い声を上げた。しかし、バンの自分への役どころを考えると心は複雑だ。





―――遊びに乗じて彼を襲わせる気だったら、どうする気だったのか。



キースは必死で二匹の下から逃げ出そうとしているバンを見た。好青年の欠点は人が良過ぎることだ。キースは看板に出ている船員全員の不審の目を感じながら微笑した。とりわけ、舵取りの横にいる独眼の海賊王とその参謀役の視線は痛いほど感じる。程なくして、自分の監視役は他の誰かに代わるだろう。









―――その夜、2日目にして、ようやくキースは船長室に呼ばれた。バンではない見知らぬ男によって案内され船長室に足を踏み入れる。


海の男からして、汚いものと思っていたがそうでもない。室内はひろく、初めて通されてから今も使っている客室に似ていた。


広々とした空間に大きな紅い絨毯。高そうなカウチに、大きなベッド。暖炉に、本棚。窓から見える景色は絶景で、机に広がる地図やコンパス。奥に見つけたビリヤードの台やチェス盤、そして酒のコレクションにキースは目を光らせた。ちらかっているものはほとんどなく、予想に反して生活感の余り感じられない部屋だった。








「――――どうぞ、座ってください」

デスクチェアに座る海賊王を一瞥してから、カウチに座るシェイラに目を移す。室内には、キースを含めて三人だけだった。


キースは勧められるがまま、カウチに腰を下ろした。






「・・・・俺の処遇は決まった、ってわけ?」



どうやら進行役はシェイラらしく、独眼のデュラン・マックウィンはただ無言で葉巻を吸うばかりだ。キースはふたたびシェイラを見た。






「―――単刀直入に聞かせてもらいます。あなたの目的は何です?あなたの正体は?」

キースはシェイラの冷めた表情をちらりと見やって、真新しいジンの茎を口に銜えた。





「依頼主の名前は明かせないね、こっちも仕事だから・・・・」




「―――キース・サラハンなる賞金稼ぎなど、どこを探しても見つかりませんでしたよ?」




キースは肩眉を上げて、それは探し方が悪いんじゃない?と呟く。シェイラの顔に一瞬、剣が走ったが、彼はにこりと笑った。






「そこまでしらっばくれるなら、いいでしょう。話を変えることにします。・・・・あそこで何をしていたのです?」




キースはニヤリと笑った。




「・・・・セニア、ガボット、コンドレ。北の大陸の海岸沿いに、最近どうも妙な連中が通る。それも大きな荷物を荷馬車で運んでる。大荷物を運ぶのなら、ザイアンの海路が一番簡単で安全だ。それなのに、なぜわざわざ陸路を使う?それは手間や危険があっても誰にも知られたくない荷物だからだ。それも見たところ一般人じゃない。話し方に東訛りがあるってことは帝国の連中かも・・・・ってなるでしょ?」




キースはくちゃくちゃとジンの茎を噛み潰しながら、話を続けた。




「―――もし、その連中が本当に帝国の人間で、命を受けて何かを運んでいるとしたら、まず第一に考えられるのは武器だ。他国に侵攻するためのさ。その裏づけを取りたかったんだよね、ま、そっちもそうだと思うけど?」



シェイラは冷ややかに笑って、キースを見据えた。




「――――国の動向に詳しい人間というのは、自ずと決まってしまうもの。あなたの服装は、北の大地特有のものですが、北に国は存在していません。・・・あなたは一体どこの国の方でしょうかね」




シェイラは何やら思惑ありげな視線を投げていたが、キースは両肩を挙げておどけたように問い返した。




「・・・・自ずと決まるでしょ?でも、ま、ヒントをあげるとしたら、あんたらと同じで、帝国に動かれちゃ困る連中の1人だよね・・・んとに、ゴラムの爺さんは欲が深い」




シェイラは後のデュランをちらりと振り返った。独眼の男がようやく重たい口を開く。






「――――協同戦線と言ったな。・・・・おまえは何を俺たちに望み、俺たちに何を与える?」






キースはゆっくりと立ち上がった。足を勧めて、静に窓際に立つと、キースは暗い海を見つめた。この向こうにキースの故郷がある。






「――――あんたらと一緒さ。帝国の真意、事の真相って奴を知りたいね」





キースはゆっくりとデュランを振り返った。ニヤリと笑った顔、しかし、その目は冷えてデュランの心すら射抜くようだった。









「俺が何を与えるか?・・・・・・ふっ、それなら聞くけど―――俺を生かす気があるわけ?それとも、海賊らしく俺から取れるだけ取って殺す気だった?」







キースが走り出す。







疾風のように。






シェイラが弓を構えるその前に・・・。







カウチを踏み台に。



デスクを飛び越え。










――――刃と刃がぶつかる。











ガキンッッッ!!!!





キースは鉄火面でナイフを構える男の目を見据えて、腕の力を緩めずにニッコリと微笑んだ。そして、すばやく退く。







―――――ガンッ!









キースのいた場所に一本の矢が突き刺ささった。







「―――――俺は俺自身に十分価値があると思うね」



シェイラの矢に狙われながら、キースは首を傾げて、海賊王を見た。シェイラの視線がデュランの指示を待つだけの状態で、しかし、寡黙な海賊王は無言を貫いている。蛇のような灰色の瞳が、ただ笑うキースを見ていた。










――――――誰も動かない。






海のさざなみと木の軋みだけが耳に届いていた。







―――やがて、海賊はその重たい口を開く。









「・・・・そうゆう言葉は活躍した後に言うんだな」





デュランの合図で、シェイラは弓矢を下ろし、定位置である背中のカバーに押し込んだ。キースはニヤリと笑うとウィンクを送った。







「―――――ま、期待しときなよ」




End.

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