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< 恋道17 -対面の恋- >








「カースケー」





「・・・うん、そうだね。俺車偏だけどね。大輔よ?はい。言ってみてー、大輔君。今なら大輔さんでも可」




「うん、うざい。その存在が不可」





「うん、そっかー。せめて保留とかないの?」






「――――ない」






「・・・・あーそー」








屋上のコンクリートに大の字になった守野信司(もりのしんじ)の視野にはただ青空だけが広がっていた。


脇から昇る紫煙が煙草の香を運んでくるが、幼馴染のその香りにはもう慣れっこだった。


ただぼーっと青空を眺めて信司は幼馴染を呼ぶ。









「・・・・カースケー」





「はいはい。なんデスカ?スケスケ大好き大輔君でーす」





「・・・開き直ると尚うざい」





「あーそーお?」











「・・・・・カースケー」






「だから、何デスカ?守野君」



















「――――好きだ」












「・・・・・」











「・・・・ぷっ、変な顔」





沈黙した幼馴染に信司はただ噴き出して笑った。


ゆっくりと上半身を起こせば、煙草を手にしたままの今時の若い男が目を見開いていた。





―――女の子をとっかえひっかえする節操ナシに何かを期待していたわけではない。



淡いその気持ちを持ち続けるのが苦しくて、さっさと撃沈してしまいと考えた時期もあったが、結局のんきで適当で頭の軽い幼馴染の傍にいることを望んだのは信司自身だった。


しかし、進路が決まった今、この先に待つのはお別れだろう。


だから、これは『恋のお別れ』なのだ。











「カースケさー、目落ちそう」








「・・・・目落ちるでしょ?てか全身の毛落ちるでしょ?ショックでさ、俺剥げるよ。マジで。ったく何言っちゃってんのかねー、この子」




「ん?カースケの目が落ちるの見たかっただけデス」




「あーそーお?もういいよ。何なの、俺ってちょーかわいそー」




「そだねー、カースケって頭ん中までちょーかわいそー」







――――適当に合わせて話しを流して。



幼馴染の立場を長年続けてきた信司にとってはどうすればいいかなんて手に取るようにわかる。


唇を突き出した男前な幼馴染が拗ねた顔で睨みつけてきても、信司はただニヤリとしたその笑みで笑えばいいだけだ。









「・・・・おまえ嫌い」





「うん。知ってる」









――――サァァァァァァァ。






冬の冷たい風が吹いてコートも着ていなかった信司はゆっくり立ち上がると、幼馴染を置いて屋上出入り口へ向かった。


クラスの違う幼馴染と会えるのはこの寒い屋上だけだ。


だが、長居が出来たことはかつてなかった。








「・・・・ちょーサム。無理。じゃなー、カースケ」





「や、だから大輔デスって。ダイスケ。もうこの際大好きも可って、ねぇ、聞いてる、シンちゃん?」






まるで逃げ出す信司を追うような情けないその声を聞き流して、信司はドアに手をかけた。






〜〜〜〜〜〜♪♪






タイミング良く流れる最新曲は幼馴染の彼女の呼び出し音で、毎度信司が遠慮しなければいけないその原因だった。


無言でドアを開けた信司は暗い階段をぼんやりと見つめる。












「あ、美奈ちゃん?・・うん、あのさー」








――――所詮、女には勝てない。





幼馴染の大好きな柔らかくて暖かいその体を信司は持ってはいないし、その体に憧れることも、ましてなりたいと願うこともない。


だから、前に進む、それしかない。


ゆっくりと歩き出した信司はそっと目を伏せた。

















「―――――――信司っ!!」






響いた声の近さに驚いて振り返れば、信司の前には携帯を耳に当てたままの幼馴染の姿があった。


取られたその腕に無意識に視線をやった信司は眉をひそめてその顔を見上げる。








「とりあえず、別れよ、美奈ちゃん。・・・え?なに?聞こえなーい。じゃ、バイバーイ」







ッ―――――。ッ―――――。







女癖は悪いとは知っていたが、それはあくまでフェミニズムからの行動で、決してこんな風に冷たい男ではなかったはずだ。


一方的な別れを告げて携帯を切る男のあんぐりな行動に信司は思わず呆れた声を出した。














「カースケさー、もうちょ――――」














「――――好きだ」











その低い声に仕返しという言葉が過ったが、真剣なその表情に思考はあっさりと掻き消える。


固まった信司は見知らぬ幼馴染のその表情を見つめていた。










――――黒い瞳はただ真摯に信司だけを見ているのだ。














「・・・シンちゃん、目落ちそう」








ニヤニヤと表情を崩した男が一瞬困ったように溜息を吐くと青空を見上げる。


そして、まるで独り言のようにその軽い言葉を落とすのだ。








「まー、なんつーの?カースケ君としてはマジならもっと分かりやすく言って欲しいってゆーか?・・・ギリギリで気づいたからいいもののさー、もう危うく俺初恋なくすとこじゃん?」






駆け引きのつもりではなかったが、目の前の男にとってはそう思えたのかもしれない。


胸の動悸が急に激しくなってきた信司は青空から戻ってきたその視線に知らず目を逸らした。





――――今は思考力0の自信があった。











「やっぱさー、最後は愛の力ってやつ?」








頭の悪い言葉とともに当然のように握り込まれた手が寒い冬の中では余計に温かかい。


ぐっと引き寄せる手が『行くな』というから信司のもう片方の手から屋上のドアノブが離されるのだ。









「・・・・バカスケ」







「ん?」








やがてもう一つの片手もあえなく男の手に捕まれば、すっぽりと男のジャケットのポケットに両手とも埋まってしまう。


そうゆう慣れた仕草にまたむかつき覚え、ポケットの中で悪戯しかける指を思いきり掴んだ信司は対面から近づく男を勢い良く睨みつけた。












「・・・・おまえ嫌い」







「――――ぷっ、知ってる」






―――――しかし、うれしそうに笑った唇は接近を止めずに守野信司から簡単に口づけを奪っていった。





End.

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