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< 恋道4 -隠された恋- >
――――どこまで行っても義理の兄は義理の兄でしかない。
所詮、外見は立派に家族を繕っても中身は継ぎ接ぎだらけのぎすぎすしたそれだった。
「・・・・・留学、するらしいな」
――――それも糸が解れかかっている。
一週間ぶりに友人をともなって家に戻ってきた大学生の義理の兄は自分の部屋に友人達を連れ込むと飲む物を探しにリビングへ降りてきた。
そして、段ボール箱を必死で玄関まで運ぶ義理の弟、羽柴範義(はしばのりよし)を見つけて一年ぶりに声をかけてきたのだ。
関心もなさそうなその冷たい目に範義はただ「ああ」と頷くと引っ越し荷物を再び自分の部屋に取りに戻る。
冷たい階段を上るその足はしかし、しばらくすると止まっていた。
「―――――――っ」
――――――ー体何を期待していたのか。
初めて兄が出来ると聞いた時、複雑な気持ちの中でも少しだけ何かを期待していた。
人間関係がそれほど広くもなく明るくもない範義にとっては問答無用の家族ならば自分から何かアクションを取ることはなくとも、自然と親しくなれるかもしれないとそう思っていたのだ。
――――――結果は虚しいぐらいであっさりと3年の月日が経った。
その間に2人で会話をしたのは数回程度で、むしろ一緒にいたくないとばかりに家にいることのない兄に流石の範義もその意味を勘違いすることはなかった。
まして近所でも有名な人気者の義理の兄にはたくさんの人間が群がっては、お誘いの電話が鳴らない日はない。
いつだって誰かに呼び出されて出かけていくその背を見送るのが範義の唯一の仕事だった。
「―――――よう、弟っ!」
――――突然、見知らぬ人間に階段で絡まれた範義ははっとして小さく頭を下げた。
後ろからは義理の兄が階段を上ってくる気配がする。
しかし、立ち去ろうとした範義を肩に腕を回した男は離さなかった。
「・・・・留学しちゃうんだって?」
――――顔を覗きこまれた範義は思わず眉を寄せたが、客人相手にその腕を振り払うわけにもいかなかった。
むしろ弟の話題を兄が話していた事実の方に範義は内心驚いていたのだ。
「―――――おい、からむなよっ。そいつは俺たちとは違うんだ」
――――何が違うのか。
はっきりと義理の兄の口から境界線を区切られたことが今更ながらに悔しかった。
思わず拳を握った範義はゆっくりと肩に回る腕を取り外そうと手を伸ばす。
「・・・・俺、引っ越しのじゅん――――」
口を手で覆われた範義の耳にそっと男の唇が近づいた。
「・・・びっくりしたんだよな、俺。アイツが泣くなんて見たことなかったからよ。弟君、理由わかる?」
「――――手を離せ」
――――割り込んだ腕が強引にその体を離すから範義はようやく見知らぬ男から解放された。
しかし、告げられた言葉がただ頭の中をリフレインする。
『――――大切な奴が留学しちまうんだとよ』
馬鹿なっと義理の兄を見上げた範義はやはりそこに冷たいその瞳を見つけた。
―――――3年間、関心がないと告げるその目だ。
「・・・・しばらくしたらアイツらを帰らせる」
それだけ告げてさっさと自分の部屋に男を連れて行く兄の背中を範義はただ黙って見つめていた。
一度として名前を呼ばれた記憶はなかったし、邪険にされた覚えはあっても気遣われた覚えはない。
「――――それまで部屋に戻ってろ」
――――だから、始めて見せた兄らしいその態度に冷たいその目に騙されてはいけないのだとぼんやり範義は悟った。
胸に湧き上がる何かが口角をあげさせて、誰もいない階段で知らず範義は笑ってしまった。
End.
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