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< 恋道3 -決められた恋- >
―――――部の打ち上げになぜ他校の生徒が交るのか。
毒島洋平(ぶすじまようへい)は思わず仲の良い陸上部の先輩に強い視線を向けた。
するとニヤリと笑うその嫌な笑みに訳のわからない苛立ちが生まれるのだ。
「――――・・・・」
――――同じ市内の高校同士ならば大会では馴染みの顔に違いない。
その顔をいくつも部の打ち上げの集合場所近くで見かけた洋平はただ軽く頭を下げた。
知らぬ仲でもなく、ましてその場所は相手高校付近で偶然出会っても不思議ではなかったからだ。
『・・・写真一緒に取らねぇ?』
同じ一年の顔見知りの男が大会会場で友人に声をかけた時、その男の脇には先輩と思しき男が立っていた。
なぜ男4人で入賞記念でもないのに写真を撮るのか理解できなかったが、洋平の友人と写真を撮りたいのか何やら話込むのを脇で見ていた洋平まで結局一緒に映ることになった。
『通ってるスポーツドクターがたまたまあの先輩と一緒でさ。最近メル友してんだわ』
何やら雲行きが怪しいと思い始めたのはいつからだったのか。
友人が他校の先輩を語り始めた頃か、それとも大会で出番になるとなぜか他校の生徒が大声を張り上げるようになったその頃か。
いずれにしろ居心地の悪いような何とも言えない複雑な気分が洋平を襲った。
「アイツらも一緒したいって言うからさ。わりぃな」
カラオケを熱唱した部の先輩が笑いながら隣に座ってそう語った時、『偶然』ではなかったのかとようやく気が付いた。
どうやら他の部員も知っていたらしい。
―――――何なんだ。
苦笑で頷いたものの何とも言えない気分に洋平は逃げ出したかった。
何しろ他校の生徒、とりわけ先輩らしい例の男から向けられる視線をどう避ければいいのかわからなかったのだ。
――――ターゲットが誰なのかその目が語っている。
「じゃ、オマエらこっちだから」
盛り上がったと言えば大いに盛り上がった合同打ち上げが終わった後、他校の部長にそう告げられた洋平は眉を寄せた。
『オマエら』とは明らかに洋平とその友人を指していたからだ。
「・・・ああ、そっちの部長にはもう許可取ったからな」
「楽しんでこいよ」手を振って去っていく部長や先輩に悪気は見られないがニヤニヤと笑うその顔に思わず拳を握る。
なぜか『売られた』という言葉が洋平の頭の中を占めていた。
周りはすでに他校の部員に固められ、乗り気の友人を前に断れそうな雰囲気でもない。
「――――俺んちこっからちょー近いんだわ。だから、これからうちで酒盛りだ。ま、男なら最後まで付き合えよ。ご指名だぜ?」
入らぬお世話と言いたかったが、他校の部員に続いて洋平はしぶしぶ歩き出すしかなかった。
「・・・・・何なんだ」
――――酒盛りは理解したが、この状況は一体何なのか。
洋平は部屋に取り残されたもう一人の男を見やるが、男が口を開きそうな様子はない。
ただ隣の部屋から盛り上がる飲み会の声が聞こえるものの、2人閉じ込られたようなこの部屋には気づまりな空気だけが残されていた。
「・・・・アイツら、俺がオマエを気に入ってるのを知ってるんだ」
突然、苦笑気味に話出した男に洋平は思わず顔を向けるが、その目力の強さに思わず視線を床に落とす。
常に県大会一位どころか全国大会にも出場するその男の名前を知っている。
しかし、自己紹介もされないまま、口に出すのは悔しかったのだ。
―――――自然、目を逸らしたままの洋平に低いその声がかかる。
「メルアド・・・教えてくれないか?」
ここまで追い詰めておいて今更殊勝なことを聞く男に毒島洋平はなぜか逃げられない予感がしていた。
End.
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