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< 恋道2 -ぶつかった恋- >
――――――近所に住む子供同士というものは望む望まざるに関わらず結局『幼馴染』という関係に落ち着くものだろう。
特に同世代で同性ともなれば『登校班』の名のもとに幼少から青少年までを共に過ごすことになる。
「じゃあな、マサ」
「おう、またな」
――――家の外から聞こえてきた高校生の弟とその幼馴染の声を江島久(えじまひさし)はただぼんやりと聞き流していた。
リビングで雑誌を見ながら寛ぐ久がその声に思うことと言えば、女子高へ行った自分の幼馴染は今頃どこの大学にいるのかという今更な疑問だった。
ガチャッ。
「・・・・帰ってたのかよ」
――――思春期真っ只中の男兄弟は互いの名前すら呼ぶことは少ない。
まして長く会話することなどほぼ皆無だった。
「――――まあな」
リビングのドアから現れた弟に声をかけはするが、久が顔を向けることはなかった。
ただ漂う沈黙が珍しく嫌で思ったことをそのまま口にしてみる。
「――――オマエら、相変わらず仲良いな」
「・・・・そうか?それなりじゃね?」
――――後先など考えてはいなかった。
「・・・・へー。ま、俺、アイツ嫌いだしな。よく続くと思っただけだ」
その後、『オマエの幼馴染が嫌いだ』と告げた兄に弟がどう返したのかすら覚えてはいなかったのだ。
―――――数日後、夕食後にリビングで寛ぐ弟が思わぬことを言い出すまでは。
「そういや、アイツのこと嫌いだって言ってたけど、アイツは違うってよ」
――――風呂に入ろうとソファから立ち上がった久は思わずぎょっと目を見開いた。
人生で初めて実の弟でさえも人間が違えばここまで違うのかと神経を疑う出来事だったからだ。
「・・・オマエ、それ本人に言ったのか?」
「―――――何、不味かった?」
――――平然とテレビに笑う弟が俄かに信じられなかった。
普通、相手を傷つけると知っていてその相手に直に言えるものだろうか。
顔も知っている近所の人間が『オマエを嫌い』だと。
特にその相手は仲良くする幼馴染の兄で家にいけば嫌でも顔を合わせる人物だ。
「―――――信じらんねぇ奴」
――――言われた身を考えた久はおそらく己の言葉が傷つけただろう年下の人物を思うと酷い罪悪感を覚えた。
だが、配慮のできない弟に八つ当たりするようにリビングのドアを荒く閉めたところで修正の効くものではなかったのだ。
――――休日のその日、江島家に家の者は誰一人いなかった。
無論、そんなことを知りもしないし、知ったところで久はスケジュールを変えることはなかっただろう。
前日のサークル飲みでオールしたうえ、昼頃になってようやく酒の抜けた久は愛車で家に戻った。
しかし、運転席を降りた途端、家の門に現れた人影に思わず嫌な汗が伝う。
「――――あの」
そこに嫌いだと言った弟の幼馴染が立っていた。
――――一体、何を言いに来たのか。
怒りをぶつけられるのか、哀しみを告げられるのか。
重く伸しかかる居心地の悪さに久は思わず視線を逸らしたくなった。
「あなたが俺を嫌いでも・・・」
「――――俺は好きです」
――――真っすぐな瞳でそう告げた背中は「じゃ」と頭を小さく下げるとあっさりと目の前から消えていった。
返る言葉を待ちもせずにただ目を見開き佇んだままの久を置いて去ったのだ。
「・・・・なんなんだ、アイツは」
――――江島久はドクドクと血流が音を立て、かっと顔に血が集まるのを止められなかった。
ただただイレギュラーなその高揚感が久の体を支配していたのだ。
End.
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