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< 恋道1 -落とした恋->
『――――アイツ、いっつもオマエのこと見てるよな』
『その視線』は常に山崎千尋(やまざきちひろ)を突き刺していた。
だから、授業中も昼食中の食堂でも、所構わず向けられる執拗なそれはあることが当たり前の存在だったのだ。
―――――千尋は思わず目の前の光景に苦笑すると、小さく鼻を鳴らす。
「――――はっ、そうゆうことかよ・・・・」
――――親友の言葉に少しでも惑わされた自分を殴りつけてやりたい。
学校でも有名な容姿を持つ友人と強い『あの視線』の持ち主は今はただ楽しそうに昼下がりの中庭で笑い合っていた。
その初々しげな2人の表情から察することができないほど山崎千尋は鈍くはない。
「―――・・・・・・」
―――――購買で買ったパンを手に無言で中庭を後にすると千尋は一人、廊下を歩き出した。
校内一美しいとまで言われる男が、名前だけは無駄に女の子らしいが、所詮、その辺の男と大した変りはない千尋に興味など抱くはずはなかった。
まして顎鬚を生やしたワイルド系の男を誰が好き好んで見るというのか。
――――ガシャンッッ!!!
馬鹿ばかしい勘違いに思わず千尋は近くの自販機のゴミ箱を蹴飛ばしていた。
「――――山崎千尋」
――――不意に名を呼ばれた千尋は不機嫌そうな表情そのままに顔をあげる。
そこにいたのはどこか見覚えのある男だったが、複雑な心中の今、思い出すことはできなかった。
「―――――オマエ、いつも俺のこと見てるよな」
禁断とも言える言葉を偉そうに言い放った背の高い男に思わず笑いが零れた。
―――――タイムリーなその男はまるで先ほどまでの自分だったのだ。
「―――そうそう。俺はいっつもアンタを見てるぜ?で、何?見物料でも寄こせってか?」
だから、『怖い』と評判の笑顔を貼り付け、千尋は哀れな男に応えてやったのだ。
柄が悪いと言われるのは慣れ過ぎぐらいに慣れているし、外見から『不良』と恐れられているこの状況で、今更学校での生活に何も期待などしていなかった。
―――――しかし、返ってきたのは意外な言葉だ。
「――――オマエ、俺が好きだろ?」
目を見開いた千尋が驚いたのはその低い声にではない。
『ギャハハハッ、オマエ、マジかよ、あんな女がいいなんてよ』
『やっぱ女はガリよりぽっちゃりだろうがっ』
『―――何事も抱き心地が優先ですってな』
『間違いねぇわ、それぞ男の真実ってな』
「・・・アンタ・・・・」
―――――ぽつりと零れた言葉がどこからともなく聞こえてきた男子校特有の下世話な会話に掻き消される。
「―――――俺のこと好きだろ?」
ニヤリと笑ってもう一度かけられたその言葉に山崎千尋はただ『あの視線』の持ち主の傍にいつも寄り添っていた男を見つめ返すだけだった。
End.
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